市中感染症診療において重要なことは,病歴・身体所見などから感染症病名および原因となる微生物名を推定することである.感染症の中には迅速な対応が求められる場合もあり,その際には必要な検査を行って治療を優先する.一方,結核や感染性心内膜炎などで安易に先行抗菌薬を投与すると,培養の感度が低下する場合もあり,最初に培養することが重要である.血液検査や尿検査などから感染性疾患が疑われる場面もあるが,それぞれの微生物によって検出方法も異なるので,具体的な感染症病名を推定し,適切な検体を得てはじめて確定のために有用な検査を行うことができる.また,その検査結果についても正しい解釈が必要である.
市中肺炎の診療において重要な5ステップは,①患者背景と臨床経過,重症度および重症化リスクを的確に評価する,②抗菌薬投与前に適切な検体を採取して原因微生物の同定に努める,③主要な原因菌(感受性菌)を対象とした標準的なエンピリック治療を行う,④微生物学的検査結果を基に標的治療に移行する,⑤病態や合併症,治療効果を基に,適切な治療期間を設定することである.本稿では各ステップにおけるポイントを概説する.
尿路は腎臓,尿管,膀胱,尿道を含み,感染部位に応じて治療戦略が異なる.菌の侵入経路は多くが直腸常在菌による上行性であり,主な原因はグラム陰性桿菌である.単純性膀胱炎に嫌気性菌カバーを含む広域抗菌薬は不要であるが,腎盂腎炎やウロセプシスなどは徹底した治療を要する.無症候性細菌尿は例外を除き抗菌薬は不要である.近年,ESBL産生菌などの薬剤耐性菌の分離が増加している.尿塗抹や尿培養による原因菌検索が診断と治療のために欠かせない.
皮膚・軟部組織感染症は皮膚および皮下組織の感染症である.皮膚付属器が病原菌の侵襲門戸となる他,創傷から侵入する場合や血行性に発症する場合もある.原因菌は皮膚常在菌のブドウ球菌やレンサ球菌が多いが,免疫不全状態や受傷機転などにより多彩な原因菌が関わる.重症の壊死性軟部組織感染症(壊死性筋膜炎やガス壊疽等)では,急激な全身状態悪化の経過をたどり,致死的となる危険性があるため,外科系専門医や救命救急医へのコンサルトのタイミングを遅れないようにすることが重要である.
胆石を持つ患者が腹痛を訴えても,必ずしも胆石に関連した症状とは言えない.また,胆管炎・胆囊炎の区別は困難なことがあるが,胆管炎は内科的な内視鏡ドレナージが治療の基本であり,胆囊炎は外科による腹腔鏡下胆囊摘出術が必要な疾患であることから鑑別は重要である.本稿では,一般内科医にとって役立つように,胆管炎・胆囊炎の鑑別診断のポイント・重症度の評価・コンサルテーションのタイミングなどについて解説を行う.
患者の病態を推測するためには可能な限りの情報を得ることが極めて重要である.これまでに,患者の80%程度の診断は医療面接・病歴で想起でき,正しい診断に迅速に導くことができると報告されている.感染症が鑑別診断に挙がる場合には,発症時の症状,発症時の臓器症状,曝露歴や感染経路,潜伏期間などを考慮し,鑑別診断を挙げていくことになる.感染症のみならず,膠原病,悪性腫瘍,薬剤性など,幅広い鑑別診断を考慮する中で,効果的な検査により,診断の可能性を絞り込むことが重要である.
新型コロナウイルス(COVID-19)の流行以来,感染症患者はCOVID-19かそうでないか,が診療の中心になってしまった時期があった.しかしながら,当然のことではあるが,感染症はCOVID-19だけではない.特に高齢者においては感染症特有の症状が現れないこともあり,感染症を疑い,慎重に診断・治療を進める必要がある.日常診療で遭遇し得る高齢者の感染症診療に関して概説した.
経口抗菌薬は最も繁用される薬剤の一つであり,感染症診療に欠かせない治療薬である.ペニシリン系薬を基本としつつ,対象とする感染症や宿主状態,地域やわが国におけるアンチバイオグラムを考慮して,セフェム系薬やキノロン系薬等を含め適切な抗菌薬を選択する.経静脈投与患者においても経過により経口投与へのステップダウンにも活用が期待されている.経口抗菌薬の処方にあたっては服薬アドヒアランスの向上が重要である.
30代男性,COVID-19感染3週間後に急性精神症状,急性心筋炎を発症し,ステロイドパルス療法で改善した.COVID-19感染後に重篤な多臓器炎症を伴うものとして,成人多系統炎症性症候群(multisystem inflammatory syndrome in adult:MIS-A)という概念が確立されている.COVID-19感染後に遅発性に多臓器に炎症を呈する場合はMIS-Aを念頭に置いて治療を行う必要がある.
89歳,男性.未治療の肺癌あり.脱力,意識障害で受診,低ナトリウム血症を認めた.細胞外液量は低下し,尿ナトリウム排泄が亢進していた.血清ナトリウム補正後も意識障害が遷延した.髄液検査で異型細胞を認め,癌性髄膜炎に伴う中枢性塩喪失症候群(cerebral salt wasting syndrome:CSWS)と診断した.髄膜炎は重篤だが見逃されることが多い.髄膜炎はCSWSの原因になり得るので,血清ナトリウム補正後も意識障害が遷延する場合は,髄液検査を検討するべきである.
49歳,女性.6カ月前の健診で軽微な蛋白尿と尿糖を指摘されていた.左眼の飛蚊症を自覚し,眼科で左ぶどう膜炎と診断された.その際に検尿異常と腎機能障害を指摘され腎臓内科へ紹介となり,腎生検で尿細管間質性腎炎を認め,尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(tubulointerstitial nephritis and uveitis syndrome:TINU症候群)と診断した.TINU症候群は,経過中にぶどう膜炎の再発や慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)へ進行することも多く,内科医と眼科医が連携して診療にあたることが重要である.
クッシング症候群は,体内に糖質コルチコイドが慢性的に過剰な時に起こる疾患である.外因性の糖質コルチコイド治療により生じることは多く,問診により除外する.内因性に副腎からコルチゾールの過剰分泌によっても生じる.糖質コルチコイドの過剰作用により,皮下出血,野牛肩,皮膚の菲薄化,赤色皮膚線条などのクッシング徴候を呈する時に疑われる.スクリーニング検査は,24時間尿中遊離コルチゾール高値,夜間血清コルチゾール高値(≧5 μg/dl),1 mgデキサメタゾン抑制試験による血清コルチゾール≧5 μg/dlのうち2つ以上で陽性と判定する.病型診断は,血漿副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)濃度が測定感度以下であればACTH非依存性(副腎性),ACTH濃度が測定可能(正常~高値)であればACTH依存性クッシング症候群であり,下垂体性クッシング病と異所性ACTH症候群の鑑別を行う.治療は原則として原発巣の摘出術が第一選択であり,手術不能例や転移例には薬物治療を行う.
慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)は,閉塞性換気障害を呈する代表的な呼吸器疾患であり,「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生ずる肺疾患であり,呼吸機能検査で気流閉塞を示す.気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に関与し起こる.臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を示すが,これらの症状に乏しいこともある.」と定義される.難治性気道疾患として日本国内で約500万人以上の潜在患者が存在すると言われており,死亡者数も多いことからその対応は喫緊の課題である.2022年6月に「COPD診断と治療のためのガイドライン(GL)第6版」が改訂され,COPD診療の最新知見が紹介されている.本稿ではCOPD GL第6版の中から日常診療に重要な治療に関する知見を中心に紹介する.また2022年11月にCOPD診療に関する世界的な文書であるGOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)レポートが改訂された.本稿では最新のGOLDレポート2023についても併せて概説する.