内臓悪性腫瘍のデルマドロームとされている疾患は少なくない.それらの疾患の多くは日常診療で遭遇することは比較的稀ではあるが,いずれも重要な疾患ばかりである.皮膚科医はそのような内臓悪性腫瘍に関連する皮膚疾患の概念や臨床に十分精通する必要がある.ここでは,そのような内臓悪性腫瘍のデルマドロームとされている皮膚疾患について概説した.
糖尿病に伴う皮膚疾患には,稀ではあるが糖尿病と特異的関連性を有する直接デルマドロームと,頻度は多いが糖尿病に特異的ではない間接デルマドロームに大別される.近年,糖尿病や皮膚疾患の病態解析が進み,なぜ糖尿病に関連して皮膚病変を生ずるのかについて少しずつ解明が進んできている.本稿では糖尿病を反映して患者の皮膚に生じている病態について概説し,皮膚病変の病因,発症機序による分類に沿って個々のデルマドロームについて解説した.
消化器疾患のデルマドロームとして,肝臓・膵臓疾患の皮膚病変と,炎症性腸疾患の皮膚病変との二つに分けて概説する.消化機能だけでなく内分泌・外分泌機能を有する肝臓・膵臓の疾患では様々な皮膚症状を合併することから,皮膚症状がデルマドロームとして基礎疾患の診断に直結する機会も多く,習熟する必要がある.炎症性腸疾患の皮膚症状は,デルマドロームとして診断に関わるだけでなく,近似・関連した免疫学的な病態で皮膚症状が発症することや,皮膚症状の治療に消化器病変の病勢の把握が必要なことからも,消化器内科医と連携した診断・治療が重要である.
古くから「皮膚は内臓の鏡」と言われるように,全身疾患に伴って様々な皮膚症状が現れることはよく知られており,血液疾患も皮膚との関わりは非常に大きい.血液疾患に伴う皮膚症状に習熟することは,皮疹を読み込むことにより血液所見の精査を促し,早期から専門医との連携をとることを可能とするため大変意義深い.本稿では,日常接することの多い貧血,血液異常による紫斑,および造血器腫瘍の皮膚病変などについて述べる.
46歳,男性.初診2カ月前から頭部の脱毛に気付き,急速に拡大した.初診時,前頭部~頭頂部,側頭部にびまん性脱毛を認めた.他に明らかな皮膚症状は認めなかった.問診により初診5カ月前に感染機会あり.精査にてRPR 6,120 R.U.,TP 7,140 T.U.であり梅毒性脱毛症と診断した.アモキシシリン内服開始し,速やかに脱毛は改善し,24週間後には正常に復した.RPRも24週間後には5.1 R.U.に低下した.頭部の脱毛を主訴に来院した場合,梅毒性脱毛症の可能性も考慮すべきである.
Curvularia lunataは環境中の土壌や朽木などに広く分布する真菌である.本菌はヒト角膜や副鼻腔の感染症原因菌として知られるが,皮膚表面への感染例はまれである.今回我々は国内初となるC. lunataによる高齢男性の趾間に生じた皮膚感染例を経験したため,既報の文献に加えて報告する.症例は81歳男性.趾間に自覚症状を欠く浸軟した鱗屑と色素沈着および亀裂を認め,検鏡にて鱗屑内に有隔褐色の菌糸が観察された.培養により本菌が分離され,2カ月のルリコナゾール軟膏外用により略治した.