メラノサイトは神経冠細胞(netural crest cell,以下,NCCと略す)由来の細胞である.Stem cell factor(SCF)/c-KTTとendothelin-3(ET-3)/endothelinreceptor B(ETRB)の情報伝達はメラノサイトの分化に重要な役割を果たす.しかし両者の相互作用とその時期など不明な点が多い.そこでSCF存在下でのET-3の作用を知ることを目的に,妊娠9.5日C57BL/6マウス由来のNCC培養系を用い研究した.また,ET-3とともにET-1も検討した.SCF単独添加群(SCF群),ET-1またはET-3単独添加群(ET-1群,ET-3群),SCF+ET-1群,SCF+ET-3添加群,無添加群の6群でメラノサイトの増殖・分化を検討した.抗c-KIT抗体による免疫染色とDOPA反応を行い陽性細胞を数えた.c-KIT陽性細胞は培養3日目までに全ての群に検出され,無添加群ではそれ以降は検出されなかったが,ET-1およびET-3群,SCF群では日を追うごとに増加し,SCF+ET-1およびSCF+ET-3群では,さらに有意に増加した.DOPA陽性細胞は無添加群ではほとんど出現しないがSCF群では9日目にプラトーとなる増加を示し,ET-1およびET-3 群,SCF+ET-1群およびSCF+ET-3群では,日を追うごとに増加し,特に後者では著増しメラニン色素をもつメラノサイトが多数出現した.以上の如くET-1またはET-3はSCFと相乗的にメラノサイトの増殖・分化を促進しメラニン色素を持つメラノサイトを出現させることが判明した.また,抗ETBレセプター抗体による免疫染色で,NCC培養系に出現する上皮様シートとNCCにレセプターの発現がみられ,ET-1およびET-3はETBレセプターに結合し作用すると考えられる.以上の培養系に抗SCF抗体を加えるとc-KIT陽性細胞は出現せず,抗ET-1抗体及び抗ET-3抗体の添加ではわずかながらc-KIT陽性細胞が出現した.以上の結果はメラノサイトの増殖・分化にはSCFは必須であるがET非依存性のc-KIT陽性細胞があることを示している.In vivoの胎生期のET-1の作用は不明であるが今回のin vivoの系ではET-1もET-3と同様に幼若なメラノサイトに作用すると考えられる.
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