食物アレルギーの発症の過程は最近まで明らかでなかった.消化管や免疫系の未熟さが発症の原因と考えられ,離乳食の開始を遅らせることが予防に有用だと考えられてきた.しかし,基礎免疫学では経口免疫寛容の概念が確立しており,ヒトでもその機能が様々な方法で確認され,またバリア障害の皮膚を通して経皮感作が重要な感作経路であることが知られるようになって,これまでの考え方を根本的に刷新する時期に来ている.
日本の予防接種制度は科学的根拠をもとに整備されているが,社会情勢をうけ変遷してきた.制度開始当初,予防接種は社会防衛の手段であり義務規定であった.その後,予防接種禍に対する集団訴訟に国が敗訴すると,接種は努力義務とされ説明と同意による個人の権利の保障が重視されるようになった.その一方で偏った情報がもたらす漠然とした不安は予防接種に対する後ろ向きな姿勢を招き,長期にわたり新しいワクチンは導入されず制度は立ち遅れた.近年このワクチンギャップを解消すべく制度の改革が行われ,複数のワクチンの公的整備が進み,疾病疫学も劇的に改善した.現在も社会不安や成人の免疫未獲得層の存在など課題は多く,教育を通して安定した基盤を築くことが必要である.
円形脱毛症(Alopecia Areata:AA)は幼児から高齢者まで幅広い年代で発症する皮膚疾患である.病因として自己免疫説が有力で,毛組織の免疫寛容(immune privilege)が破綻し,自己免疫性反応性T細胞により毛幹細胞の存在する毛隆起部を含まない毛包下方を構成する細胞が傷害されて脱毛すると考えられている.発症の契機すなわち免疫応答の失調を引き起こす誘因として,アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患,膠原病や橋本病,バセドウ病などの自己免疫疾患,精神的ストレスや自律神経失調症,感染症の関与が考えられている.特に小児のAA患者では成人に比べてアトピー素因を有する割合が高いことが報告されている1).
日齢0日,男児.生下時から両下肢に広範囲の皮膚潰瘍があり,軽微な外力により水疱とびらんが新生した.病理組織学的所見ではHE染色で表皮下水疱がみられた.電子顕微鏡検査所見では係留線維が全体に低形成であった.遺伝子検査では,COL7A1のエクソン5にc.553C>T(p.R185X),エクソン116にc.8569G>T(p.E2857X)の変異が検出された.以上から劣性栄養障害型表皮水疱症と診断した.自験例では両アレルで終始コドン変異がみられたが,臨床症状は重症ではなかった.これはVII型コラーゲンが二量体を形成する際に結合して切断される部位よりC末端側にE2857X変異があるためと考えられた.
31歳,女性.初診の3カ月前に顔面浮腫が出現し,難治のため当科紹介となる.顔面の浮腫および下腿の紅斑を認めたが血液検査では著明な異常はなく,CTにて軽度の胸水と脾腫を認めたが確定診断には至らず.その後,発熱や汎血球減少が出現し血球貪食症候群を疑い再度精査したところ血中EBウイルス抗体価とDNAの上昇および皮膚組織でEBER-ISHが陽性を認めたため慢性活動性EBウイルス感染症と診断した.成人においても難治性顔面浮腫に遭遇した際は本症も考慮し,EBウイルスの精査が必要と思われた.
56歳女性.両眼瞼の浮腫性紫紅色斑とmechanic's hands,筋原性変化の欠如から無筋症性皮膚筋炎(ADM)と診断した.抗MDA5抗体が強陽性と判明し,急速進行性間質性肺炎の高リスクと予測されたが,副作用を懸念し,プレドニゾロン単剤による治療を開始した.しかし,病勢マーカーの上昇と肺すりガラス陰影の出現を認め,タクロリムス,シクロホスファミド大量静注,大量免疫グロブリン療法を追加した.抗MDA5抗体陽性DMに対しては早期から積極的に多剤併用療法を施行すべきと考えた.