胞状奇胎に併発し,臨床的には妊娠性疱疹 (HG) が疑われ,病理組織学的所見,免疫組織学的所見,ならびに免疫血清学的所見は水疱性類天疱瘡 (BP) のそれにほぼ一致していた表皮下水疱症症例を報告した.蛍光抗体法による検索にて,無疹部皮膚の表皮真皮間基底膜部 (bmz) と真皮上層の小血管壁にIgG, IgA, C 4 , C 3の沈着が認められ,血清中と水疱液中に in vitro で C4 や C3 を結合する lgG 抗基底膜抗体が証明された,血清中の抗基底膜抗体力価と疾患の活動性との間には一定の関係か認められ,増悪期に一過性の血清 C3 の低下が証明された.皮疹部の bmz には IgG, C4 , C3 の沈着はほとんど認められず,水疱液中の抗基底膜抗体力価は著明に低下していた.無疹部皮膚の bmz における lgG と C3 の沈着パターンが異っていたこと,水疱液中に C3PA と C3A とが証明されたことなどから,本症例では classical pathway とalternate pathway の両方を介して補体が活性化され,これにより生じた血管透過性完進因子や多核白血球遊走因子によりその病理組織学的変化,更には皮疹が惹起されるものと考えられた.血清中の HG 因子の存在が証明されたが,子宮内膜,胎盤絨毛膜,絨毛上皮腫組織に対する流血抗体は証明されなかった.ジューリング疱疹状皮膚炎から移行した BP があるように,BP は病因的に異ったものが含室れている一つの症候群ともみなしうるので,本症例を BP に含めるごとは可能ではあるが,HG でも抗基底膜抗体が陽性となる可能性はあり,臨床像その他から考え,病因を重視した病名をつけるなら,抗基底膜抗体陽性の HG とした方がよいと思われた.
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