血管肉腫は肉腫全体に占める割合が約1%と比較的稀な,血管およびリンパ管を構成する血管内皮細胞から生じる間葉系悪性腫瘍である.病態が不明であり,診断が時に難しいにも関わらず有効な治療に乏しいのが診療上の課題である.
一方,融合遺伝子は通常の遺伝子変異とは異なり,腫瘍細胞において染色体の転座・挿入・逆位などが生じた結果,複数の遺伝子が結合することで生じる.例えば肺癌にみられる融合遺伝子EML4-ALKは病態の解明や新しい診断法・治療法の開発に著しく有用で診療に変革をもたらした.
皮膚悪性腫瘍のなかでは隆起性皮膚線維肉腫における融合遺伝子COL1A1-PDGFBが1997年に初めて報告されて以来よく知られている.我々は,血管肉腫においても融合遺伝子が原因になっているケースがあると考えNUP160-SLC43A3を同定した.血管肉腫における遺伝子異常についてのこれまでの知見とともに論じる.また,有棘細胞癌についての研究結果も紹介する.
皮膚に分布するmemory T細胞には,血中・リンパ組織中とを循環するcentral memory T細胞(TCM)と,皮膚に移行した後再循環せず皮膚に留まり続けるresident memory T細胞(TRM)が含まれる.皮膚T細胞リンパ腫において,菌状息肉症(TRMの悪性化),セザリー症候群(TCMの悪性化)の臨床像を悪性T細胞の動態の観点から整理することが,その病型の相違を理解する一助となる.
メラノサイトが癌化した悪性黒色腫は他の癌腫に比べて体細胞遺伝子変異が多い.主たる遺伝子異常はMAPK経路とPI3K経路に集中しており,活性型変異やコピー数増幅によりこれらの経路が強く活性化される.最も多いBRAFV600E/K変異は間歇的露光部に頻度が高く,コピー数異常などの構造多型は末端黒子型悪性黒色腫に多い.分子異常のタイプが病型と相関することは,悪性黒色腫の発癌に関わる紫外線や物理的刺激と分子異常が相関していることを示唆する.活性型変異を標的とする治療法の開発が進められており,BRAFV600E/K変異に対する分子標的治療に応用されている.
有棘細胞癌(squamous cell carcinoma,SCC)では,TP53,CDKN2A,NOTCH1,NOTCH2,KMT2C,KMT2D,FAT1遺伝子に高頻度に変異がみられる.マウスを用いた研究からは,SCCの起源が毛包幹細胞にもあるという知見が蓄積してきている.上皮間葉転換により転移能の高いSCCが生じる過程では,エピジェネティックな遺伝子の発現制御が関わっている.SCCは体細胞変異の頻度が非常に高いため,免疫チェックポイント阻害薬が奏功する可能性がある.
当院では乳児血管腫250症例に595 nmロングパルスダイレーザー(V-beam)による治療と腫瘤形成した乳児血管腫12症例にプロプラノロール内服投与を行った.これらの治療した症例における早期治療の有効性と治療後の残存病変の問題について検討し,「wait and see policy」を含めた治療方針を考察した.
発症初期からの積極的な治療は「wait and see policy」に比べて,血管腫が消褪するまでの時間を短縮し,治療後の残存病変を軽くすることができた.産科医,小児科医と密に連携し発症初期からの積極的な関与が重要と思われた.