脱毛症は病態の主体が表皮下にあることが多く,正確に診断し病態を把握するためには適切なテクニックを用いる必要がある.つまり脱毛パターンを把握するのみならず,抜毛テスト,トリコスコピー,病理組織学的所見を総合的に評価することが日常の脱毛症診療において重要である.本稿では日常診療で特に遭遇頻度の高い円形脱毛症を中心に,脱毛症の鑑別および治療の最適化に有用な病態理解に基づく診断のアプローチについて概説する.
脱毛症は病態によって症状は様々であり,病態に沿った治療を行うことで改善や進行抑制が期待される.臨床症状,臨床経過,全身症状,ダーモスコピー所見,抜毛試験,牽引試験,病理所見,血液検査,家族歴などをもとに適切な診断を行い,病態,病勢に沿った治療選択を行いたい.本稿では円形脱毛症,男性型脱毛症,膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎の治療の工夫を中心に最近の治療選択を含めて解説したい.
毛髪は毛周期に応じた生理的な脱毛と発毛を繰り返し,毛の密度を一定に保っている.毛周期を維持するためにそれぞれの毛包に毛包幹細胞が分布している.毛周期の生理的な周期に障害が生じ,毛が欠如しているか疎になった状態を脱毛症という.後天性に発症する脱毛症には,円形脱毛症や壮年性脱毛症のほか,内分泌異常,膠原病など様々な全身疾患に伴うものがあり,毛髪異常は全身状態を反映する重要な臨床症状である.毛包幹細胞は毛隆起の上部,毛脂腺付着部付近の神経終末部に分布していて,休止期から成長期に移行するのにしたがって,新しい外毛根鞘を形成し,毛包幹細胞の一部は毛母に移動して新しい毛包を形成する.薬剤性脱毛症,円形脱毛症,萎縮性脱毛症の毛包幹細胞から考えられる病態の解明と,近年の毛包幹細胞を用いた毛包や神経,心筋の再生医療に向けた研究について説明する.
遺伝性毛髪疾患は稀な疾患ではあるものの,常染色体潜性縮毛症/乏毛症など日本人において頻度の高い疾患も存在する.近年,多くの遺伝性毛髪疾患の原因遺伝子が同定され,今後も更に原因遺伝子が同定されることが予想される.一部の遺伝性毛髪疾患においては治療法が開発される可能性があることから,遺伝性毛髪疾患の臨床的特徴や原因遺伝子を理解することは重要である.
16歳女性.初診2年前に出現した右乳頭の結節が徐々に増大し受診した.右乳頭に15×13 mmの淡紅色で囊腫様に触知する弾性軟な結節があり,局麻下に摘出した.病理組織像では腫瘍は比較的境界明瞭で,粘液腫性の間質内に異型性の乏しい紡錘形細胞,類円形細胞などが疎に分布し,毛細血管が散在していた.臨床・組織所見よりsuperficial angiomyxoma(SA)と診断した.Carney複合を合併しない孤発性のSAが乳頭に発生することは稀であり,国内外の孤発性SA 224例の文献的検討を加えて報告した.
神経鞘腫は放散痛など典型的な症状を有すると比較的容易に臨床診断可能だが,明確に区別できる例はそれほど多くない.また,皮下腫瘍は多彩で画像検査が診断の助けになる.当科で経験した神経鞘腫11例で,エラストグラフィを利用した超音波検査と病理組織を比較し特徴をまとめた.神経鞘腫は境界明瞭な低エコーで,稀に分葉状を呈した.内部は不均一なモザイクパターンや一部に無エコー領域を呈し,側方,後方エコーの増強を認めた.血流は豊富なことがあり稀に拍動性を呈した.エラストグラフィでは不均一な硬さを示すことが多かった.
小児多系統炎症性症候群(multisystem inflammatory syndrome in children:MIS-C)は小児の新型コロナウイルスに感染後に重篤な循環器障害を呈する疾患である.11歳男児のSARS-Cov-2感染より3週間後に3日間以上持続する発熱と心機能障害があり,体幹・四肢には紅斑の出現がみられ血液検査所見と合わせてMIS-Cの診断であった.本症は高頻度で消化器症状と循環器症状を認め,川崎病との鑑別に有用である.また,MIS-Cに伴って出現する皮疹は紅斑丘疹型,紅斑型が多く,皮疹が出現した方が重篤になりにくい傾向にある.病理組織学的には表皮の異常角化細胞の出現と空胞変性がみられるが,血管炎や血栓の所見は認めないことが多い.