日本人の尿中 5-S-CD の正常値並びにこれに及ぼす諸因子を検討し,次いで,悪性黒色腫患者の尿中 5・S,CD 値と病勢との相関を検討し,以下の興味ある知見をえた. 1)尿中 5・S・CD の正常値並びにこれに及ぼす諸因子について 健常日本人の尿中 5-S-CD 値はスウェーデソ人のそれとほぼ同値であり,L-ドーパ,α.メチルドーパ服用者にしばしば異常値がみられ,尿中 5-S-CD 値は光線照射後増量をみた. 2)悪性黒色腫患者尿中の 5-S-CD 値と病勢との相関について (1) Stage 別 : Stage 1では正常値~境界値にとどまるが, stage 2 では症例の 43% が異常値を示し,また, stage (3)4では 69% が異常値を示していた.なお,stage 1,2 で術後転移(-)例の全ては正常値~境界値を示した.また,尿中 5-S-CD の平均値は stage の進行とともに段階的に増量をみる. (2)転移の有無:転移(+)例では 86% が異常値~境界値を示し,転移(-)例では 78% が正常値範囲内であった. (3)病巣摘出と尿中 5-S-CD : Stage 2 で術前異常値で,術後正常値に復した例もある反面, stage 1,2 で術前境界値以下のものが術後異常値を示す例もあった.このような症例では,経時的な測定とともに,転移の有無の精査が重要であることが示唆される. (4)生命の予後との相関:死亡が確認しえた例の多くは異常値を示し,1日の排泄量が mg の単位であると3ヵ月以内に死亡する例が多いようである. (5)尿中 cysteinyldopa 各異性体・DOPA と病勢との相関 : 5-S・CD は病勢と相関して変動し, 2-S-CD, 2,5-S,S・CD, 6・S-CDも5-S・CD と同様の変動パターンを示す.一方,DOPA は病勢との相関はないようである. (6)DOPA 負荷テスト : Stage 1,2 の患者では対照群に比して尿中 5・S-CD の増加がみられ, 5-S-CD に比し, DOPA の増量が目立った. Stage 4 では,尿中 5・S-CD 値の増量は顕著であるが DOPA 値の増量は軽微であった. 5-S-CD あるいは DOPA の排泄ピークは12時間以内にみられた. 以上の結果から,日本人の悪性黒色腫患者における尿中 5・S・CD の経時的測定は転移の有無とその広がり,治療効果の判定,予後などを知る上に有力な bio・chemical marker になりうることが示唆された.
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