Bowen病の5例について微細構造を電顕的に詳しく検索した.得られた成績は次のように要約される.(1)主な腫瘍細胞の微細構造の特徴は次のようであった.核は大きく,輪郭が不整,核小体は顕著であった.トノフィラメントとデスモソームは少なく,細胞間隙は広く,そこにミクロビリがみられた.ミトコンドリア,小胞体などの細胞内小器官は細胞質の豊富な細胞では多く,細胞質の乏しい細胞では少ない傾向があった.リボソームは豊富で,多くはポリソームを形成していた.Golgi装置や中心小体はまれにみられた.細胞内にメラノソームを持った腫瘍細胞は少なかった.(2)基底層の細胞の微細構造は一般に正常表皮基底細胞のそれと変りなかった.ただし,basal laminaの一部に小裂隙があり,そこから細胞質性小突起が偽足様に真皮へ突出している所見がまれにみられた.(3)2核ないし3核の大きな腫瘍細胞も観察された.その微細構造は主な腫瘍細胞のそれと大差なかった.(4)核分裂像は比較的多数観察された.その場合,塊状の染色体をトノフィラメント束が囲むように配列している所見があった.そのほか,核被膜の外側に断片的な染色体が存在したり,細胞内小器官が核被膜の内側にみられるような異常核分裂像もみられた.(5)異常角化細胞には二つの場合があった.一つは細胞質全体にトノフィラメントが増加・凝集したもの,他は細胞質の一部にトノフィラメントの凝集塊が存在するものである.後者では,トノフィラメントが個々明瞭に識別できる場合,電子密度の高い均質無構造の場合,およびそれらの中間型と思われる場合があった.(6)Pigment blockade状態のメラノサイトが観察された.(7)Langerhans細胞が腫瘍巣内にまれに観察された.その微細構造に異常はなかった.(8)Bowen病の主な腫瘍細胞の微細構造を棘細胞癌のそれと比較すると,トノフィラメントとデスモソームの所見についてはBrodersのいう悪性度3~4度の棘細胞癌に似るが,他の細胞内小器官についてはむしろ1~2度の棘細胞癌に近いものがあった.
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