1.生涯の全経過を通して,ヒト皮膚には(歩けば体重が足底に,話せば表情筋による内からの変形が顔に,という具合に)生命活動に伴う負荷がかかり続ける.負荷を受けた皮膚は肥厚したり硬化して負荷に対応するから,しだいに負荷は薄くて軟らかいままの部分をたどるように変形させて吸収される.これがシワである.
2.小ジワは,表皮と真皮乳頭層までの不均一化による表在性の折れ線(図2)である.真皮乳頭層は表皮プロパーの結合組織(→本文)であるから(外用・ピーリングなどの)無侵襲性の表皮修飾により乳頭層も一括して修飾されて小ジワも消える.
3.大ジワは,深達性の,真皮網状層の中まで表皮が折れ込んだ線(図3)である.不均一になった真皮網状層を(外科的切除・熱変性・充填剤・筋弛緩などの)侵襲性に修飾することで消去する.
4.露光によるシワは,真皮網状層に板状に沈着した弾性線維成分のために,真皮が(厚紙を折るように)直線的に折れた線(図4)である.光熱暴露を減らすことで予防できる.
5.誕生と共に発現し,生涯を通してほぼ変化しない均等な分割模様がキメ(→本文)であり,シワとは異なる.とはいえキメは表皮と乳頭層までの(小ジワと同じ深さの)凹凸であるから,個体が置かれた自然・社会環境あるいは疾患により変化する.この様子は苔癬局面ではキメが直線状になることでも経験される.
本邦におけるシワの改善治療の1つとして,機器を用いた治療が簡便で安全性も高いため大きな支持を得ている.いずれの機器においても,ラジオ波,近赤外線,レーザーなどのエネルギー源を使って真皮内部に局所的に熱を発生させ,その生体反応により老化したコラーゲンに熱収縮・熱凝固を起こし,線維芽細胞が活性化して創傷治癒機転,再構築が誘動できると考えられている.1回の施術による効果は短期で局所的なものとなるが,定期的,継続的に施術することにより,小ジワ~中等度のシワであれば改善が期待できる.
最近,エイジングに対する治療は関心が高く,その中でも注目されている治療のひとつにシワ治療が挙げられる.シワ治療の中でも注入療法は,安全かつ短時間で効果を得られる満足度の高い治療といえる一方で,満足度を上げるためには適応が大切である.注入療法において適正な治療を行うためには,老化のメカニズム,薬剤の基礎的知識はもとより,実際の治療に関わる解剖学的構造,治療の特性などを理解する必要がある.ここでは,皮膚科医にとって必要な注入に関する知識と明日から診療に役立つ安全な手技を紹介する.
26年間に岐阜県内8医療機関で経験したマダニ刺咬症94症例(116虫体)を検討した.男性41例,女性51例で,2例は不明.年齢は平均55.0歳.4月~7月に多く発生した.タカサゴキララマダニが症例では61.7%,虫体数では52.6%と最も多く,隣接する富山県,石川県とは異なった.マダニ若虫が47.4%と最も多く,成虫メス(32.8%),幼虫(18.1%)と続いた.刺咬部位は体幹,頭頸部,下肢,陰部・鼠径と広く分布した.1例で蜂窩織炎様の腫脹,1例で発熱を伴ったが,後遺症なく回復した.
41歳,男性.11年前に左足背と左下腿に青色結節が出現し,生検で偽Kaposi肉腫と診断された.以後,皮疹の新生なく経過していたが,再診の2カ月前に左足底に青紫色調の腫瘤が出現し,さらに止血困難な出血を伴う小潰瘍,足背から下腿にかけて急速に拡大する紫斑が出現した.病理組織像から血管肉腫と診断し,化学療法を行うも効果なく永眠した.11年前の足趾背病変の病理組織像を改めて検討すると,intermediate(中間群)の悪性血管腫瘍の像を呈しており,本症例は11年の経過を経て,悪性度の高い血管肉腫へ転化したと考えた.
2012年4月から2015年3月まで熊本赤十字病院を受診した熱傷患者を調査検討した.患者総数は1,700名(男性820名,女性880名)であり,入院は133名(男性78名,女性55名)であった.原因は,高温液体50%,高温固体29%,火炎11%の順で,3歳未満が全体の33%を占めた.高温液体は全年齢層で多く,小児では高温固体での軽症例,成人以降は火炎での重症例が多かった.当院の1998~2000年の調査と比較し,入院患者のBurn Indexは平均18から11へ低下し,重症例は減少していた.
島根県はリケッチア症の侵淫地域であり,早期診断体制の確立と普及は喫緊の課題と言える.本研究では,臨床応用可能となる迅速なリケッチア症の検査体制を確立する事を目的とした.血液・皮膚組織・痂疲検体より抽出したDNAを用いて,real-time PCR法およびnested PCR法による病原体遺伝子検出を行い,系統樹解析による病原体同定を行った.2011年9月から2014年8月までにリケッチア症疑い症例11名を検討し,10例でリケッチア症を確認した.不幸な転帰を辿った1症例を経験し,リケッチア症の早期診断体制の重要性が強く認識された.