爪疾患の病理組織像を解釈するうえでは正常な爪部の立体構造と組織像を理解している必要がある.爪母・爪床の上皮には毛包・脂腺,汗腺が付属しないほか,角化様式は外毛根鞘に類似した顆粒層を経ない角化様式である.上皮の立体構造は爪母では幅広い棍棒状の上皮突起が中枢側に先端を向けて斜めに傾いて存在する.これに対して爪床では横断面では細長く規則正しい上皮突起が観察されるが,縦断面ではこの上皮突起に相当する凹凸がほとんどみられない.爪疾患のうち爪母・爪床上皮の病変ではこの特殊な構造を理解したうえで上皮の変化を評価する必要がある.非上皮性病変で組織学的検索の対象となるものは腫瘍が多く,極めて稀な疾患を除けば好発する腫瘍は限られており,組織像を一度理解しておけば診断は比較的容易である.
爪乾癬と爪扁平苔癬では,それぞれ特徴的な変化が爪に現れることから,爪の所見から臨床診断を行うことはそれほど難しくない.組織検査を行う場合は,解剖学的な病変の首座から,できるだけ低侵襲に行うことが望ましい.爪乾癬では,局所外用療法単独でも高い治療効果が得られることが多い.一方,爪扁平苔癬では,爪母の不可逆的損傷を少しでも回避するための早期治療開始が鍵であり,爪母における激しい炎症が示唆される場合には,ためらわずに全身療法を選択すべきである.
外力により生じる爪疾患として手指爪に生じやすい匙状爪,波板状爪(洗濯板状爪),爪甲中央縦溝症,爪甲縦裂症,爪甲層状分裂症を,第1趾に生じやすい陥入爪,巻き爪,爪甲鉤彎症,多重爪,後爪郭部爪刺し,ギリシャ型の足では第2趾に生じやすい爪下出血や爪甲の肥厚混濁,第5趾爪に生じる爪変形について,それらの原因について簡単に記し,治療法についても記した.
皮膚科医と尋常性痤瘡患者を対象に,痤瘡の炎症後紅斑(PIE)と炎症後色素沈着(PIH)に関するアンケート調査を行った結果,PIE,PIHの心理面への影響は,炎症性皮疹や萎縮性瘢痕と同様に大きかった.8割程度の医師が患者の希望があれば治療を行っていたが,治療経験のある患者は3,4割だった.治療内容はビタミンCの外用・内服が多かったが,治療満足度は50%程度であった.PIE,PIHの効果的な治療法は少ないため,急性期後の維持療法によって炎症性皮疹の新生と,それに続くPIE,PIHを防ぐことが重要と考える.
56歳男性.下腿に結節が出現し,2カ月後に鼠径リンパ節腫大に気づいた.CD30陽性大型異型細胞の増殖があり,ALK陰性,CLA陽性より当初は下肢原発に鼠径リンパ節浸潤を伴った原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫と考えた.全経過を通じ下肢と鼠径リンパ節病変のみであったが,治療抵抗性で発症から1年で死亡した.EMA染色が陽性であり,下肢皮膚と鼠径リンパ節病変を認めた未分化大細胞型リンパ腫・ALK陰性型と診断を修正した.両者の鑑別は予後が異なるため重要である.EMA陽性は全身型の指標として有用であった.
69歳女性,48歳女性の,中等症型劣性栄養障害型表皮水疱症の難治性潰瘍に対して,新規保険適応となった自己表皮由来細胞シート(ジェイスⓇ)を植皮し,潰瘍上皮化率の経過を報告する.症例1では観察した背部7カ所,両下腿7カ所の潰瘍の術後12週時点での上皮化率はそれぞれ93.9%,100%であり,このうち10カ所は完全上皮化した.症例2では観察した背部4カ所,右側腹部10カ所の潰瘍の術後11週時点での上皮化率はそれぞれ53.5%,87.9%であり,このうち6カ所は完全上皮化した.2例ともにジェイスⓇ植皮で良好な潰瘍面積の縮小が得られた.