酸性ムコ多糖類(以下AMPSの略記)は,Nアセチル化したヘキソサミンとウロン酸の等分子部からなる高分子化合物で,高等動物では生体の実質細胞と脈管系の間を埋めるいわゆる結合織基質として多量に存在する.結合織は気質の他に膠原,細網,弾性等の線維,線維芽細胞,肥胖細胞,組織球等の細胞よりなり,かかる基質のムコ多糖類は有形成分と密接に関連して結合織線維形成等に与かると共に,つよい陰性荷電をもつため水分,電解質,有機物質の代謝調節或いは組織の透過性に関係し,生体機能の重要な役割を果すものである.近年高分子化学の長足の進歩にともないAMPSの構造代謝も明確となつてきたが,Meyerによれば次のように分類されている.Ⅰ 非硫酸基ムコ多糖類 1)ヒアルロン酸(以下HAと略記) 2)コンドロイチン Ⅱ 硫酸基ムコ多糖類 3)コンドロイチン硫酸A(以下ChS Aと略記) 4)コンドロイチン硫酸B(以下ChS Bと略記) 5)コンドロイチン硫酸C(以下ChS Cと略記) 6)ケラト硫酸 7)ヘパリン(以下Hepと略記) 8)ヘパリチン硫酸 又かかるAMPSの組織分布には多少の特徴があり,臍帯,関節液はHAを多量に含み,角膜はコンドロイチン,ChS A,ケラト硫酸を,大動脈にはChS A,ChS B,ヘパリチン硫酸,骨にはChS A,ケラト硫酸,軟骨にはChS A,ChS C,腱にはChS B,ChS Cが含まれるが,皮膚結合織にはChS Bが特異的で,ためにDermatan Sulfate(Meyer)と呼ばれることもある.このようにAMPSの化学は愈々外貌が明らかになつてきたが,生体の代謝と関連してAMPSの質的量的消長をとらえようとすると,形態学的組織乃至細胞レベルにおける局在性の裏打がぜひとも必要となる.ところが各臓器の結合織は各線維や細胞群とその間を満す基質が混然と交錯した構築物であり,とくに皮膚においては表皮及び附属器も混入するので,単一なホモジネートや抽出物をつくり難く,生化学的研究法の大きな制約をうけるため,現今においてはかかるAMPS分布や同定は組織化学的方法によつてのみ初めて可能となりうる.しかし残念ながら現今,個々のAMPSの組織化学的同定には満足すべき方法はなく,その実施には主として経験的な染色法に加味して,メタクロマジー或いは酵素消化に頼らねばならぬのが現状である.そこで著者は以下に述べる如きAMPSの化学的分別の一理論を応用し,その技法を検討考案しようと試みた.1953年StaceyはCetyltrimethyl ammonium bromide(以下CTABと略記)によりAMPSが沈澱することを報告し,つづいて1955年Scott,SchillerらはAMPSの如きPolyanionは同じく四価アンモニウム塩たるCetylpyridinium chloride(以下CPCと略記)の如き陽性detergentと不溶性結合を起し,これが電解質中で再溶解すること,かつ電解質濃度によつて各AMPSの溶解度が異ることを示した.このAMPS-陽性
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