肝細胞癌に対する経肝動脈腫瘍塞栓術(Transcatheter arterial embolization:以下TAE)により生じた有痛性皮下結節の3例を報告した.症例1:70歳女.TAE施行翌日より臍上部に高度の疼痛を伴う淡紅色斑が出現.蜂窩織炎を疑い,抗生物質加ステロイド軟膏外用と抗生剤の点滴静注により経過を観察したところ,紅斑は消失し10日後より同部位に拇指頭大の有痛性皮下結節が2個出現.約10週間で結節は消失した.この時点では本症に対する知識と経験がなく診断に難渋した.症例2:69歳女.TAE施行翌日より臍上部に有痛性紅斑が出現.6日後下床と癒着する示指頭大の有痛性皮下結節が2個出現.nodular fasciitisを疑い,結節を全摘した.病理組織:皮下織葉間結合織内の微小血管内に泡沫状の小空胞を含むエオジンに淡染する物質が充aXし,脂肪細胞の大小不同,変性壊死像,線維化を伴っていた.リポファージ,異物型巨細胞も認められた.この時点で初めて,TAEによる造影剤と抗癌剤の塞栓によって皮下結節が生じたことが判明した.症例3:74歳女.TAE施行2日後より臍上部に有痛性紅斑が出現.3日後より同部位に拇指頭大までの皮下結節が計5個出現.前例の経験よりTAE施行後に生じた皮下結節と臨床診断しえた.病理組織学的にも症例2と同様の所見が得られた.本症の発症機序としては,リピオドールと抗癌剤の懸濁液が左肝動脈あるいは中肝動脈から肝鎌状靱帯動脈を介して腹部皮下組織に到達し,塞栓を形成し皮下結節を生じると考えられる.本症の皮膚科領域からの報告はこれまでに1例のみであるが近年本症は増加していると考えられ,注意を喚起したい.
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