基底細胞上皮腫(Basal cell epithelioma,以下BCEと略す)の特徴である緩徐な発育の機序を明らかにするために,細胞培養法を用いて,BCE細胞の増殖を正常表皮ケラチノサイト(normal epidermal keratinocyte,以下nKと略す)と比較検討した.BCE細胞は,3T3細胞による支持細胞層を用いたBCEの組織片培養により得られ,試みた組織片培養の74%において細胞増殖を認めた.光顕的観察では,BCE細胞はnKと比較して,培養シャーレに飽和状態に達するまでに約2倍の日数を要し,多形性に富む細胞が見られた.一方,細胞増殖のマーカーの1つとなるモノクローナル抗体Ki67による免疫組織化学反応では,BCE細胞では,nKと比較して陽性率が有意に高かった(BCE;14.7%,nK;3.1%).従来BCEでは,細胞周期のうちS期が延長していることが報告されているが,BCE培養細胞を用いた今回の実験により得られた結果は,これらの報告を支持しBCEの臨床における特徴をよく反映したものであった.今回我々は,マイトマイシンCで処理した3T3細胞による支持細胞層を用い,また,培地にヒト血清を添加することにより,従来困難とされてきたBCEの細胞培養を容易にした.この細胞培養法は,BCEの分化,増殖を知る上で有用な手段であると考えられた.
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