患者は35歳,男性,鹿児島県出身.昭和61年4月頃より,両上眼瞼,手背,右大腿に自覚症状のない扁平隆起性紅斑局面,小結節が出現したため,昭和62年4月10日愛知医大皮膚科を受診した.皮膚生検にて,真皮血管周囲に核異型性のあるリンパ球の浸潤をみとめた.ATLA抗体40倍陽性,Human T lymphotropic virus type-I(HTLV-I)proviral DNA の検索にてmonoclonal integrationを呈した.末梢白血球数は7,500/mm3であったが,flower cellが常時数%存在し,骨髄には浸潤が見られず,表在リンパ節の腫脹も見られなかった.UGI,GIF,Ba-enema,腫瘍シンチ,腹部CT,胸部X-P,リンパ管造影,血清学的検査に異常がなかったため,smoldering adult T cell leukemia and lymphoma(ATLL)と診断した.しかし肝機能に軽度の異常を認め,精査の結果B型肝炎ウイルスキャリアーであることが判明した.患者家族3名のHTLV-I proviral DNAを検索し2名にlong terminal repeat(LTR)の2本のバンドが見いだされたが,他の1名は完全なpolyclonal integrationであった.またLTRのバンドが見られた2名には同時にB型肝炎ウイルス感染が認められた.ATLLのhigh risk familyより発症したsmoldering ATLLを報告するとともに,家系内に見られたHTLV-IとB型肝炎ウイルスの二重感染の関連性について若干の考察を加えた.
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