Behcet病の病態生理を免疫学的な面から解明するため,患者の血清免疫グロブリンおよび補体成分を測定し,また皮膚・粘膜病巣,針反応陽性部位およびヒスタミン皮内反応部位を免疫組織学的に検討した.患者48例中30例(活動期24例,寛解期6例)について血清免疫グロブリン,補体成分およびIgG免疫複合体の全部または一部を測定した結果,患者群の血清IgA,IgM,C3,C5の平均値は健常人群におけるよりも有意に高いこと,また活動期患者群の血清IgAの平均値は寛解期患者群におけるよりも有意に高いことが明らかにされた.なお,IgG免疫複合体の異常高値は活動期例にのみ認められた.また,上述の患者から採取した結節性紅斑様皮疹30個(発生後3日以内の早期病巣12個,4日以上経過した病巣18個),毛包炎様皮疹6個,外陰部潰瘍4個,口腔粘膜の潰瘍3個,針反応陽性部17個およびヒスタミン皮内反応部11個を免疫組織学的に検索した結果,結節性紅斑様皮疹では真皮血管壁へのIgMおよび各種補体成分の沈着が検出されたが,その検出率は4日以上経過した病巣よりも3日以内の早期病巣において著しく高いこと,また発生後の経過日数が不明であったその他の皮膚・粘膜病巣ではいずれもC3の沈着のみ検出された.針反応陽性部でも真皮血管壁へのIgMおよび各種補体成分の沈着が高率に検出されたが,さらにIgAおよびproperdinも時に検出された.これらの成績および皮膚・粘膜病巣や針反応陽性部がいずれも好中球を主体とした急性滲出性炎症の像を示すことから,本症の病変の発現には免疫学的機構が関与すること,その機構はIgM抗体のFc部位へのClqから始まるclassical pathwayにしたがって進行することが推測された.しかし,alternative pathwayにしたがって進行する機構も除外できないように思われた.また,針反応は本症の免疫学的病態を反映する有用な検査法と考えられた.なお,ヒスタミン皮内反応部ではIgMおよび補体成分が検出されたが,その検出率は患者群と健常人群との間に有意差が認められなかった.
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