1938年高松によりアルカリ性フォスファターゼ染色法が発表され次いでGomoriも別個に同様の研究を完成し組織化学に新たなる分野を開拓したが,以後多数の研究者がその染色法の追試及び改良に努めて来た.最近では全く異なれる手段によりアゾ色素法がManheimer & Seligmanにより提出されている.本酵素は所謂エステラーゼに含有されるもので燐酸モノエステルの加水分解反応に関与する酵素として知られ,生体内には比較的広範に分布し諸臓器内分布に就ての報告も多く且又至適pHの如何によりアルカリ性及び酸性の両フォスファターゼに組織化学上区別される.本酵素の皮膚科領域での究明は未だ僅少に過ぎぬし(Fisher & Glick,Pirila & Franko,Shelley & Mescon,Moretti & Mescon,Spier u. Martin),然かも概ね断片的の観察である.而して本酵素の生体内に於ける機能に関しては諸説が未だ確認せられるに至らぬが,皮膚に於てはRothmanがCalcium-Depositと関係ありとしMoogは細胞の成長並びにグリコーゲンとの関連性を挙げ,Gold & Gold)は膠原線維との問題を論述している.本染色法の創始者高松は広範な研究により細胞機能の亢進時のフォスファターゼの増加,ホルモン投与及び自律神経機能障害時又実験的ビタミン缺乏症乃至過剰症に於て変動を認めると発表している.余は健常及び病的皮膚組織に就て本酵素の分布状況を追究し,一方家兎を使用し実験的皮膚炎・創傷を惹起せしめた場合の本酵素の態度又人間胎生期に於ける本酵素の分布を胎児手掌背・足蹠背・躯幹背部・頭部の皮膚に就き検索を実施した.
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