悪性腫瘍治療薬である免疫チェックポイント阻害薬は,免疫のブレーキを解除し自己の抗腫瘍免疫を増強する作用機序であるため,その適応は腫瘍の種類の制限を受けにくい.そのため,保険適応取得の拡大が続いている.さらに,単剤療法ではなく,2剤の免疫チェックポイント阻害薬,もしくは他の悪性腫瘍治療薬との併用療法による抗腫瘍効果の増強が注目を浴び,臨床の現場で徐々に主流となりつつある.一方,その免疫学的作用機序から,免疫関連副作用(immune-related Adverse Event:irAE)が知られており,多診療科連携のもとに対処していく必要がある.その発症や重症化に関連するリスク因子の同定を目指した研究が全世界で行われており,将来的には有力なバイオマーカーが発見されることが期待されている.irAEとしての皮膚障害は,頻度は高く重症度は低いものが多い一方,時に重症化する.皮膚科医は,これら薬剤を使用するだけではなく,他診療科からのコンサルトを受ける機会も多いため,常にirAEの現状を把握しておく必要がある.本セミナリウムでは,皮膚科医が知っておくべき免疫チェックポイント阻害薬の基礎から,その皮膚障害に関する最近の話題を含めて概説する.
免疫再構築症候群(immune reconstitution inflammatory syndrome:IRIS)は本来HIV感染に対するantiretroviral therapy(ART)による免疫の回復に伴って生ずる疾患群である.非HIV感染者においても免疫抑制治療の解除や免疫チェックポイント阻害薬投与による免疫の回復により同様の病態が観察される.皮膚科領域では薬剤性過敏症症候群がまさにIRISの病態と解されている.
薬疹の中でも高い死亡率や重篤な後遺症を呈する薬疹は,重症薬疹と定義される.重症薬疹の病態機序に関する研究は近年,網羅的な遺伝子解析技術に代表されるテクノロジーの進歩により飛躍的に進んだかのように思われる.しかし,詳細なメカニズムを含め,未だ多くの不明点が残されている.動物モデルを用いた解析やバイオマーカー探索,薬疹関連遺伝子などの研究の進展によりそのメカニズムは少しずつ明らかになってきている.
アトピー性皮膚炎では,Th2サイトカインの顕著な発現が認められる.加えてIL-17産生細胞の浸潤も報告されているが,その意義については未解明の部分が多い.本稿では,CCR6を発現するIL-17産生細胞の遊走因子であるCCL20産生に対する「搔破」の影響をIn vitro表皮細胞搔破モデルを用いて検討した.表皮細胞シートを搔破するとCCL20産生放出が特異的に誘導されること,及びその産生量はIL-4,IL-13による影響を受けないことが明らかとなった.これらの結果から,IL-17産生細胞浸潤は「搔破」に伴う2次的な現象で,Th2サイトカインの影響下で起こっているわけではない可能性が示唆された.
アパルタミドは,2019年より使用されるようになった遠隔転移を有しない去勢抵抗性前立腺癌の経口治療薬である.日本人では投与をうけた約半数に皮疹を生じているが,皮膚科領域ではあまり知られていない.アパルタミド投与開始後約2カ月で,好酸球増多とともに全身に苔癬型の発疹を生じた2例を報告する.抗アンドロゲン製剤は薬疹の原因薬剤として見逃しがちであるが,苔癬型薬疹の原因薬剤として認識する必要がある.