琥珀酸脱水素酵素succinic dehydrogenase(以下S.D.と略記)は1909年Thunbergにより初めて発見,報告された.このものは組織学的には細胞のミトコンドリア内に存在し(Green-Auerbach,Schneider,Hogeboom)生体に廣く分布する.人間皮膚に就てはMontagna-Formisano,Foraker-Wing,松岡,安西等,健常皮膚並びに各種皮膚疾患の皮膚病巣に於けるその存在,その活性度を検索している.即ちS.D.は皮膚にあつてこれを有する細胞の置かれる正常及び病的狁態に於て観察されているが,皮膚附属器管の一種として,毛髪の発育過程,所謂毛周期hair cycleに於て,又毛髪の蒙る病的変化に於て毛髪,毛嚢に於て如何なる変化を呈するかは毛髪病理の一研究課題としてこれを取上げる必要があるが,正常毛周期に於ける毛髪,毛嚢に就てはS.D.以外各種酵素の活性,グリコーゲンの消長等とともに,S.D.活性の消長も亦既に検索され,例えばArgyrisはanagen(活動期)にその増強することを認めているが,毛髪疾患の代表的のものとも見られる円形脱毛症では毛嚢の変化に伴うグリコーゲン(鳴海,竹﨑),アルカリフォスファターゼ(Kopt et al,竹﨑,名和田)の消長が組織化学的に検索されている以外,S.D.に関しては松岡が少しくこれに触れているに過ぎない.
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