66歳,男性.約15年前に理容院のコテによる熱傷を右耳介後部に負った.保存的治療を行ったが創部は上皮化と潰瘍化を繰り返したため,当科を受診.皮膚生検で基底細胞癌(BCC)の診断となり,腫瘍全切除,植皮術を施行した.術後6カ月の現在まで再発を認めない.熱傷瘢痕上に発生する腫瘍の大部分は有棘細胞癌で,長期間の経過の後に発症することが多い.自験例のように比較的短期間で発症したBCCは稀であるが,受傷時年齢が高く浅い軽症熱傷からの発生が多いなどの特徴的な例が多く,文献的考察を加えて報告する.本邦における熱傷瘢痕からのBCC発生報告は自験例を含めて25例あり,それらは若年で受傷しBCCの発症までに長期間を要する群と,高齢で受傷し短期間でBCCを発症する群に大別された.いずれの群も露出部に多く,比較的軽症の熱傷から発生する傾向がみられた.海外の症例集積研究においてもBCCは軽症の露出部の熱傷から比較的短期間で発症することが報告されている.BCCの発症には変異PTCH遺伝子のヘテロ接合性の喪失(loss of heterozygosity,LOH)が要因となることが確認されているが,今回の報告例の集積調査から,浅い熱傷潰瘍・瘢痕にも紫外線と同様にPTCH変異やLOHを誘導しやすい作用がある可能性が考えられた.本症例の経験から,特に高齢者では,露光部の浅い熱傷潰瘍や瘢痕は比較的短期間でBCCを発症する可能性を考えて診療する必要があると考えられた.
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