伝染性軟属腫ウイルス(molluscum contagiosum virus,以下MCVと略す)にかんする研究は,1817年Batemanの記載に端を発し,その本体については表皮細胞の変性によると考えるものや,寄生原虫説をとなえるものなどがいたが,現在では本症がウイルス疾患であり,いわゆるmolluscum小体といわれるものが典型的な細胞質内封入体であることはすでに一般に認められている.また多くの病理組織学的研究ならびに電子顕微鏡学的研究により,形態学上本ウイルスはpox virus群に分類されている.しかしその微細構造にかんしてはまだ不明な点が多い.一方感染実験の成功は,人体接種のみに限られ,動物および発育鶏卵を用いての分離実験では,いまだ成功例をみていない.近年組織培養法によるウイルス分離が行なわれるようになり,Chang and Weinstein(1961),Neva(1962),Raskin(1963),藤浪ら(1964)および夜久(1966)らにより,各種培養細胞を用いてMCV分離が試みられ,いずれも封入体の形成や特異的な細胞変性効果(CPE)を認めており,論文の中には数代の継代に成功したと述べているものもある.しかしこのCPE惹起因子については明らかな証明はなされておらず,分離にかんしても2~3代の継代をつづけるうちにウイルス感染力の低下をきたし,遂には消滅してしまうことや,一度生じたCPEも時間を経るにつれ元の正常組織像に回復してしまう点など,まだまだ本ウイルスの分離には大きな障壁がある.また血清学的研究としては,軟属腫患者血清を用いての沈降反応,中和試験および蛍光抗体法などにより抗原抗体反応の成立が証明されている.その後PostlethwaiteらやFriedman-Kienらによつて,MCVを感染させたmouse embryo cellやchick embryo cellにインターフェロン様物質の存在が認められ,それはMCVによつて惹起される物質であることが示された.さらにRobinsonらは電子顕微鏡学的にMCVがchick embryo cell中で増殖しないことを証明し,uncoating proteinの産生がないことをその直接原因だと述べている.今回著者はミドリ猿腎由来の継代細胞であるGMK細胞を使用し,MCVの分離を試みると同時に電子顕微鏡学的ならびに組織化学的観察も併せて行ない,GMK細胞中でMCVの増殖が行なわれないことを確かめた.またCPEを惹起する因子を確かめるために,新しい手段としてゲル濾過法を応用した.さらに単純疱疹ウイルス(herpes simplex virus,以下HSVと略す)のプラック形成阻害を利用して,MCV感染GMK細胞中にインターフェロン様物質の存在を証明した.
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