表皮のケラチン形成Keratinizationは表皮の最も重要な働きの1つである.基底細胞という未熟な胚芽細胞が分裂増殖し,有棘細胞,顆粒細胞,角質細胞へと上方外界に進むに従つて形態学的にも異なつた型をとり,同時にケラチンと呼ばれる表皮特有の硬蛋白が形成される.この皮膚の最外層に位するいわゆるケラチンは種々の機械的,物理的,化学的などの刺激に抵抗し生体の保護作用を営んでいるものとみなされる.この基底細胞から角質細胞への移行には,Rothbergらの14C-glycineを用いた正常人表皮での実験によれば,26日から28日を要することが明らかにされているが,人の炎症性角化症の代表的な疾患であるpsoriasis vulgarisではこの基底細胞から角質細胞への移行日数が著明に短縮しており,Rothbergらは3日から4日であると述べている.この移行時間(life span)の短縮と同時にpsoriasis vulgarisは著明に角質増殖と肉眼的落屑を伴い,その角質を形成しているケラチンにも異常があるのではないかと考えられ,ケラチンの生化学的な検索が種々試みられてきた.しかし先にも述べたごとくこのケラチンは種々の化学的な物質に対し強い抵抗力をもつており,そのため容易にその解明を許さなかつたが,1952年のRudallの研究が端緒となり,爾来次々と新しい研究成果が発表されるに至つた.その歴史の主なものをひもといてみると,まずRudallは牛の鼻の表皮を上層,中層,下層に分け,それぞれを6 M ureaで抽出を行ない,IN-HCIにて処理し,pH5.5と同4.5の2画分をえた.Carruthersらは同じく牛の表皮を6 M ureaにて抽出し,IN-HCI処理にてpH6.3,同5.5,同4.5の3画分をえ,さらにpH6.3画分よりpH5.5,同5.1,同4.5の3画分を分離した.これらの研究はいずれも表皮蛋白を数種の蛋白画分に分けるにとどまつたが,Rothbergは人正常表皮,乾癬,魚鱗癬患者の落屑をpH7.3,0.1 M phosphate bufferにて透析し,透析不能の蛋白を0.05 M NaOHで抽出し,pH5.5,同5.0,同4.5の3画分をえ,それぞれの画分をトリプシン,キモトリプシンで処理し,ペプチッドに細分化している.すなわち表皮蛋白をさらに低分子化して構成要素の解明を試みたものである.不溶性蛋白の研究が行なわれている間に一方で可溶性成分の研究も始められた.可溶性成分中の遊離アミノ酸は,最初の頃には汗由来のものとの考えがRothmanらによつて主張されたが,やがてこれらのアミノ酸は表皮起源のもので,表皮細胞の角化過程中に表皮細胞より生成されたものであるとの考えがGrunbergら,Spierらによつて次第に明らかにされ,またDowlingらも人の両側と片側の腰部交換神経節切除術を施行し,臨床的に発汗を起こさない下肢の角層より遊離アミノ酸をとりだし比較検討した結果,結局これらのアミノ酸は汗由来でもなく,またケラチンの加水分解によるものでもなく表皮細胞蛋白由来のものであろうと述べている.さらに進んで表皮蛋白をアミノ酸の単位にまで分解し,その構成アミノ酸の面よりケラチン形成の解明を行なおうとした研究がなされたが,これらの研究もアミノ酸個々の定量法の技術がなお充分でなく,多くは高電圧濾紙電気泳動法,ペーパークロマトグラフィーなどによるもので,いずれも定性的なものがほとんどであつた.本邦においても,佐藤,原田ららのこれらの手段を用いた報
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