半合成の penicillin (PC) および cephalosporin (CS) 系薬剤に対する接触過敏症を誘導したモルモットに,感作薬剤と同一薬剤を体重 kg 当り1,000mg腹腔内注射することにより generalized rash(GR)を誘発することが出来た.この実験的薬疹と遅延型局所皮膚反応の関係を比較検討すると共に血中抗体についても検討した. 1) GR も,局所皮膚反応も,24時間ないし48時間後をピークとした遅延型過敏反応(DH)であるが,GR は誘発3時間後に出現するのに対し,貼布試験による接触過敏反応は誘発6時間後にも未だ出現しないという違いがみられた.皮内試験による浸潤を伴った紅斑反応も,同様に誘発6時間後には出現しなかったが,ほとんど浸潤を触れない淡い紅斑だけの反応は,誘発3時間後に既に出現しており,GR の出現時期に一致した 2) cephalothin-keyhole lympet hemocyanin (CETKLH) 感作モルモットにおける GR は,接触過敏反応や皮内反応と同様に担体特異性を示した. 3) GR の主な組織変化は,真皮上層の血管拡張を伴うリンパ球と好中球などからなる細胞浸潤であり,表皮の変化が軽度であることを除けぼ,基本的には接触過敏反応の組織と同じであった. 4) GR と接触過敏反応は,その強さの程度においては相関しなかった試薬剤間の交叉反応性においてはほぼ同様の成績を示した. PC および CS 系薬剤のアシル側鎖の構造は,抗ハプテン抗体に対する抗原決定基の重要な部分を構成するとされている.そのアシル側鎖の構造が全く異なる cephalothinとcefazolin の間において,GR と接触過敏反応が交叉反応したことは,アシル側鎖がこれらの免疫反応に対する抗原決定基の重要な部分を構成していないことを示している.従って,GR は,交叉反応性からみた抗原構造において,抗ハプテン抗体とは異なり,接触過敏反応に類似していることが考えられた. 5)間接血球凝集反応による抗ハプテソ抗体価は,sulbenicillin感作において最も高い値を示し,次ぎは,ampicillin 感作, benzylpenicillin 感作の順であった.しかしながら, cephalothin および cephalexin 感作においては,著明な GR が誘発されるにもかかわらず,抗ハプテン抗体は血中にほとんど認められなかった. 以上より,この実験的薬疹は,経時的変化,担体特異性,組織所見,交叉反応性および抗ハプテソ抗体価など多くの点で,薬剤に対する遅延型局所皮膚反応に一致しており,血中抗体よりは,むしろ細胞性免疫が重要な役割を果していることが考えられた. しかしながら,GR は,強さの程度において遅延型局所皮膚反応に相関せず,前者は後者の単なる全身的表現ではないと考えられ,両者の解離と Jones-Mote 型反応,ツペルクリソ型過敏反応との関連についても若干の考察を加えた.
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