日本は山野や河川の多い豊かな自然環境に恵まれており,人手の加わった雑木林や田畑,公園,住宅地などを含めて多様な環境を有する.これら多様な環境には,それぞれに適応した多くの種類の虫が生息し,中にはヒトに皮膚炎を起こす種類もある.皮膚科診療においては,より正確な診断,患者指導を行うために,ヒトに被害を及ぼす虫の形態や生態的特徴と,その生息環境を知ることが重要である.
時代の流れと共に,疾患や動物との関わりは変わっていく.マダニでは,マダニ媒介性感染症が新たに見つかってきた.マダニと牛肉アレルギー,抗癌剤アレルギー,血液型との関連も報告されている.マダニの専門家集団SADIの活動についても報告する.ムカデは,かつて大切にされていた時代がある.ムカデ咬傷の疫学とともに,人とムカデとの関わりについて述べる.
日本ではアタマジラミ症に対する治療薬として,ピレスロイド系薬剤のフェノトリン0.4%配合の市販薬のみが認可されている.欧米ではこのピレスロイド系薬剤の無効なアタマジラミが蔓延し,沖縄県でも蔓延していることがわかった.本稿では抵抗性の機序や海外のアタマジラミ治療薬,沖縄県内の取り組みや実際的な駆除法を解説する.
ノーベル賞受賞者の大野智博士が開発したイベルメクチンは,抵抗性アタマジラミにも有効であるが,日本では保険適応がなく使用出来ない.
77歳,男の水疱性類天疱瘡(BP)で,プレドニゾロン(PSL)内服とDFPP,ミノサイクリン,ニコチン酸アミドなどの併用をしたが,難治の症例であった.経過中に膀胱がんの再発や肺結核の疑いが生じたため,皮疹再発時に免疫抑制をきたす治療法を選択することが困難な状況であった.このため大量免疫グロブリン(IVIG)療法の併用を選択し,皮疹の再燃を抑制した.その後PSLの減量を進めながらBPの再発を防ぐ目的でIVIG療法の併用を継続した.計16クール施行し,その間再燃なくPSL漸減が可能であった.
56歳,男性.数年前より頭部に結節が出現.徐々に増大し,2016年12月当科初診.後頭部に15×15 mmの中心が隆起し,表面糜爛をともなう紅色の結節があった.2017年1月に全摘出術施行.病理組織像では乳頭状汗管囊胞腺腫,管状乳頭状腺腫とアポクリン腺囊腫の3つの腫瘍の所見が併存し,近年新しく提唱されたアポクリン分化をともなう管状乳頭状囊胞状腺腫に相当する腫瘍と診断した.この腫瘍の概念を中心に考察した.
イキセキズマブは,乾癬の病態に重要な役割を担うと考えられているIL-17Aを標的とする.国際共同での無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験では,イキセキズマブの12週間投与によるPASI 75達成率は77.5%~89.7%,PASI 90達成率は59.7%~70.9%,PASI 100達成率は30.8%~40.5%であった.また,国内の単群非盲検試験では,それぞれ98.7%,83.3%,32.1%であった.さらに,乾癬性関節炎(又は関節症性乾癬),乾癬性紅皮症,および膿疱性乾癬に対してもイキセキズマブの有効性が示されている.安全性は既存の生物学的製剤と大きく異なるものでなく,安全に使用可能であると考えられる.本稿では,イキセキズマブの薬理学的特性および有効性・安全性について概説する.