メラニン生合成の研究は,近年著しく発展し,脊椎動物におけるメラニン生合成の場はメラノソームであることが明らかにされた.これのメラノソームはメラノサイトで生成される顆粒で,チロジナーゼ活性をもつことで特徴づけられている.メラノサイトにおけるメラニン生合成はチロジン→ジヒドロオキシフェニールアラニン(ドーパー)→ドーパーキノンの反応ではじまり,両反応ともチロジナーゼで触媒されると考えられている.メラニン生合成はすべてメラノソームの中で進行し,最後に黒褐色の約0.7×0.3μ(人毛根メラノサイトの場合)の大きさの顆粒となる.これがメラニン生合成の完了したメラノソームで,メラノサイトの最終産物である.メラノサイトについての電顕的研究は生化学的なメラニン生合成の諸段階と関連して,その形態学的変化を明らかにし,さらに,メラノソームの起源はGolgi野の空胞に由来することを示唆している.最も初期のメラノソームは約直径0.12μの球状の空胞で,単位膜に包まれ,内には無構造な物質の貯溜が認められ,成熟が進むとともに無構造な物質の他に一条の明瞭な明暗の周期を示す線維構造を認めるようになる.このような形態学的特徴から,このGolgi野の滑面空胞はメラノソームの前駆体と考えられている.鶏胚色素上皮もチロジナーゼ活性を持ち,その活性は胎生時期とともに変化する.胎生初期に弱かつた活性は次第に上昇し,胎生10日で最高に達し,その後減少し18日以後は殆んど測定されなくなる.メラノソームの大きさも表皮,毛根のメラノサイトに見られるものよりも大きく1.5×0.5μである.著者は鶏胚色素上皮よりGolgi野の大空胞と考えられる顆粒を分離し,生化学的手法及び電顕的ラジオオートグラフィーを利用し,その顆粒の上にチロジナーゼの存在を証明し,メラノソームはGolgi野の空胞に由来することを明らかにする目的で以下の実験を行なつた.
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