いわゆる接触皮膚炎の発生機序はアレルギーで説明され,感染アレルギー,移植片アレルギーと並んで遅延型アレルギーの一典型とみなされている.すなわち皮膚に接触した原因物質(多くは比較的単純な化学物質…hapten)がまず皮膚とくに表皮の蛋白と結合して完全抗原となり,これが生体を感作してその結合物に対する抗体を産生することにより接触アレルギーが成立すると考えられている.産生された抗体はhaptenに対する特異性は当然有しているが,次の3点からhaptenが結合する皮膚蛋白に対しても特異性の存在することが注目されている.すなわち,1)経皮的(塗擦もしくは皮内注射)にhaptenが投与された動物は高度かつ高率に接触アレルギーが成立するのに反し,皮下,腹腔内,リンパ節内,静脈内など皮膚に直接ふれることなく抗原が投与された場合には,接触アレルギーは全く成立しないか,あるいは感作されても弱く,低率であること.2)in vitroで調製したhaptenと同種の皮膚水溶液成分との結合物で動物を感作すると,接触アレルギーが成立するが,haptenと同種の血清蛋白との結合物で感作した場合には成立しないこと.3)接触アレルギーを大量のhaptenと同種の表皮抽出物および血清との結合物を用いて抑制(一時的減感作)すると,前者の結合物を用いた場合が後者を用いた場合よりも著明であるなどの3点である.一方最近では単純化学物質による遅延型アレルギーにおける抗原の特異性決定構造は即時型アレルギーにおけるそれよりも幅広く,大であり,haptenのみならずそれと結合している担体部分にまで及んでいることが明らかにされ,担体特異性が強調されている.前述の3点とともにこの主張を考慮に入れて接触アレルギーの成立機序を再検討すれば,haptenと皮膚蛋白結合物によつて感作された生体は,同一haptenであつても皮膚蛋白以外の蛋白との結合物に対しては反応を示すことはなく,haptenが皮膚に接触しhapten-皮膚蛋白結合物が形成された場合にのみ反応することになり,接触アレルギーの成立機序をより明確に説明することが可能となる.しかしながら,hapten蛋白結合物により接触アレルギーを抑制する試みについても前述の報告と相反する結果も記載されており,また前述の第2項の結果についても異つた報告もあり,なお一層の検討を要する.著者は以上の諸点に着目して,接触アレルギーにおける担体としての皮膚蛋白の意義を確認する目的で,2,4-dinitrochlorobenzene(以下DNCB)をhaptenとする一連の実験を計画した.すなわちDNCBで感作したモルモットにおいて,2,4-dinitrobenzene sulfonic acid sodium salt(以下DNBSO3Na)と同種表皮あるいは真皮水溶性成分,同種血清との結合物に対する遅延型皮内反応の態度を比較し,またこれらの結合物を腹腔内に大量投与することによつて生ずる接触アレルギーの抑制を観察して,接触アレルギーにおける皮膚成分の意義を検討することにした.
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