皮膚には,末梢神経の分布に伴って多くの種類のニューロペプチドが存在するが,これらは多彩な生理活性を有し,近年その役割が注目されている.サブスタンスPやCGRPには血管拡張作用があり,皮膚が刺激されると知覚神経C線維から軸索反射によって逆行性に放出され,いわゆる神経原性炎症をもたらす.また,これらのニューロペプチドは各種の炎症細胞の遊走を促し,血管内皮細胞にも働いて接着分子を発現させるほか,マスト細胞の脱顆粒を介してケミカルメディエーターを放出させるため,炎症の多くの場面で炎症細胞浸潤に積極的に関与することが考えられる.さらにニューロペプチドは,免疫担当細胞に対して,その増殖やサイトカイン産生といった諸機能を調節する免疫修飾物質としての作用があり,炎症の質的な制御を考える必要がある.最近,神経線維が表皮内でランゲルハンス細胞と接することがわかったが,CGRPはランゲルハンス細胞の抗原呈示能を抑制することで皮膚の接触過敏反応の抑制をもたらし,例えば紫外線による皮膚炎発症と皮膚免疫能低下の双方に関与することが明らかとなった.アトピー性皮膚炎や乾癬といった炎症性皮膚疾患でも神経線維が増加しており,その病像形成に果たすニューロペプチドの役割が指摘されている.皮膚の構成細胞は,神経線維とそこから分泌されるニューロペプチドによって統合支配されているとみなすこともでき,今後は中枢神経との関わりあいを明らかにしていく必要がある.
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