梅毒に於けるJarisch-Herxheimer反応は既に古くから知られており,最初は専ら皮膚,粘膜病巣の増悪が問題とされていたが,その後発熱,全身違和,淋巴腺腫脹,筋肉痛,肝脾腫大,蛋白尿,神経再発,脊髄癆増悪症状等が取りあげられて来,又他面水銀,砒素,蒼鉛のみでなく,近来はペニシリン初め各種抗生物質によつても少からず惹起され,特に心血管系に対する反応は時に重大結果を招くことが警告されている.そして先に我が教室の高橋はペニシリンを初め種々の駆梅剤によつてこの反応が髄液にも現われることを詳細に報告している.そこで余は今回血清蛋白方面からこの反応を検討したのであるが,一体梅毒に於ける血清蛋白の問題はその血清反応とも関連し古くより研究され,特に最近Tiseliusの電気泳動装置により蛋白化学の領域に新しい分野が開拓されてからはDavis,Cooper,Neurath等により注目さるべき業績が続々と発表されて来た.然しJarisch-Herxheimer反応との関連から梅毒に於ける血清蛋白を検討した研究はいまだ内外を通じて全く見られていない.余は茲に北大医学部皮膚科教室に於ける梅毒に於けるJarisch-Herxheimer反応に関する系統的研究の一環として,先に教室の高橋が発表した髄液に就ての研究に引続き血清蛋白面に於ても明らかにJarisch-Herxheimer反応の1表現と看做して差支えない一過性の変動を見出し得たので,以下それに就て記述しようと思う.順序として先ず梅毒に於ける血清蛋白の問題を検討し,次いで血清蛋白面に現われたJarisch-Herxheimer反応と考えられる成績に論及することにする.
抄録全体を表示