乾癬において脂質代謝の異常が観察されるか,もしされるとしたら,それが第一義的なものかどうかについては,本症の発生病理上,重要な問題であるが,いまだ議論の多いところである.現在までの報告をまとめると,次の2つの大きな流れに要約される. 1.血中におけるコレステロールやリン脂質等の脂質は,本症で定量的な差,それも増加しているとの報告が過去のある時期多くみられた.しかし,これらのデータを再度統計的に処理しなおすと,その異常値の有意性については疑わしくなつてくる.そのため古典的な検査法でなされた高脂血症を呈する乾癬の報告は,あまり問題とされず,脂質代謝異常は一義的なものとは考えないとする説である. 2.乾癬病巣局所においては,種々の脂質が量的に多く存在し,またその生合成能も盛んである.さらに病巣局所のみでなく,患者血清においてもリポ蛋白のpreβ分画の増加,またはβ分画の増加がみられたことより,本症と脂質の関係が再注目されだした.これによれば,本症と脂質代謝異常は第一義的であれ,第二義的であれ密接な関係があり,さらに一歩その発生原因の解明に近づいたとする説である.本研究の目的は,最近著しく進歩したリポ蛋白の分析法,すなわちセルローズ・アセテート膜による電気泳動,免疫電気泳動,超遠心分析等を用いて,この2つの考え方を再検討し,本症における脂質代謝異常の有無を追求することにあつた.その結果,本症において血清リポ蛋白の増量を認めたのみならず,正常のものと質的に異なるリポ蛋白も存在すると思われた.現在まで,乾癬患者の血中または皮膚病巣内において,正常人のそれと質的に異なつたものの発見はなかつたので,ここに報告する次第である.
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