高分子量タンパク分解酵素(プロテアソーム)は,近年新たに発見された非ライソゾーム系酵素のひとつである.我々はウイスター系ラット皮膚より,硫安分画,Phenyl Sepharose疎水性カラムクロマトグラフィー,HPLCゲル濾過を用いて本酵素の分離精製に成功し,その性状について詳細に検討した.その結果,①本酵素は分子量がゲル濾過上約75万,通常の電気泳動では単一バンドを示し,SDS存在下の電気泳動にては分子量約2.0万から3.5万の間に4~5本のバンドが認められた.二次元電気泳動においては,pI3からpI10の範囲に約15~20個のコンポーネントが認められた.②電子顕微鏡により本酵素の形状を観察したところ,本酵素分子は中心に約30~50Åの穴を有するドーナツ型,左右対称性構造を有する直径約150Åの環状粒子であった.③本酵素はセリンプロテアーゼの基質であるSuccinyl-leucyl-leucyl-valyl-tyrosine-methylcoumarinamide (SLLVT-MCA)に最も高い基質特異性を示した.④本酵素はanion detergentの一つであるsodium dodecyl sulfate(SDS),飽和脂肪酸のpalmitic acidや不飽和脂肪酸のarachidonic acidなどで強く活性化された.⑤二価金属イオンのCa2+で活性化されたが,Cu2+,Co2+,Hg2+,Zn2+などでは逆に不活化された.⑥各種酵素阻害剤の本酵素活性に及ぼす影響を検討したところ,セリンプロテアーゼ阻害剤であるDFP添加によって最も強い活性抑制が認められた.システインプロテアーゼ阻害剤であるN-ethylmaleimide(NEM),iodoacetamide(IA),leupeptinやセリン,システインプロテアーゼ両方の阻害剤であるchymostatinによっても活性が抑制された.⑦本酵素は40℃までは熱安定性を示したが,60℃,30分の加熱によりほぼ完全に失活した.⑧皮膚組織を1.0M KCIを用いて表皮と真皮に分離し,其々の酵素活性を測定したところ,表皮は真皮の約6倍を高い活性を示した.⑨ポリクローナル抗体を作製して免疫組織学的検索を行ったところ,本酵素は表皮細胞質に主として分布することが明らかにされた.以上より,本酵素はセリン残基とシステイン残基を活性中心に有する中性プロテアーゼで,皮膚においては主として表皮に存在しており,脂肪酸によりその活性が調節されている可能性が示唆された.
抄録全体を表示