近年,食物アレルギーの発症機序において経皮感作の重要性が認識されてきた.これまでに報告された経皮感作型食物アレルギーは5つに大別することができる.すなわち,(1)アトピー性皮膚炎乳児に発症する食物アレルギー,(2)美容性,(3)職業性,(4)動物刺咬傷によるもの,(5)動物飼育によるものである.前3者の感作源は食品やその成分であるのに対し,後2者は生きた動物由来の成分であり,食品との交差反応によって食物アレルギーが誘発される.
食物アレルギーは経口摂取による消化管での感作が主体であると考えられてきたが,近年,皮膚を介してアレルゲンが侵入する経皮感作が注目されている.化粧品は皮膚の汚れを除去し,乾燥を防ぎ,外的刺激から皮膚を保護する働きを有している.その一方で,化粧品に含まれる食物由来成分あるいは食品と共通する成分により経皮感作が生じ,その食物を摂食し,アレルギー症状が出現した症例が報告されている.食物アレルギーの症例を診察する際には,化粧品による経皮感作によって発症した可能性を念頭に置いておく必要がある.
筆者らは,本邦における獣肉アレルギーの主要な原因抗原エピトープが米国からの報告と同様,糖鎖galactose-α-1,3-galactose(α-Gal)であることをつきとめた.さらに,マダニ唾液腺中に糖鎖α-Galを証明し得たことにより,本邦における獣肉アレルギーの感作原因がマダニ咬傷であることが推察された.獣肉アレルギー患者は,交差反応のために,カレイ魚卵や抗悪性腫瘍薬のセツキシマブに対してもアナフィラキシーを発症する.後者では死亡例も発生しており,我々臨床医は,マダニ咬傷による糖鎖抗原感作から生じる多彩なアレルギーに留意しなければならない.
症例は75歳男性で,関節リウマチおよび間質性肺炎に対してPSL 15 mg内服中.2018年2月中旬に手指のしびれと手掌および足底の疼痛を自覚した2日後,疼痛部位に一致して皮疹が出現し当科受診.
両側手掌および足底に紅斑,紫斑と一部血疱を認め,両前腕にも粟粒大の紫紅色斑を認めた.
皮疹は落屑を残し一カ月後には治癒.手袋靴下型の特徴的な臨床症状,病理組織学的所見とHPV-B19 IgM抗体価の上昇よりHPV-B19感染症に関連したPPGSSと診断した.
有棘細胞癌(SCC)と基底細胞癌(BCC)は,時に両者の鑑別が困難な臨床像を呈する.鑑別診断にSCCを挙げたが,BCCと確定診断した11症例のダーモスコピー像と病理組織像を比較検討したところ,全て無色素性,もしくはわずかな領域のみ色素を伴う病変であった.Arborizing vessels,branched vessels,微細な青灰色領域,小病変の段階から存在するulcerationは,BCCを強く示唆する所見であった.病変全体の細部にわたる評価と潰瘍出現時期の聴取が両者の鑑別に重要である.
67歳,女性.発熱と両足部の蜂窩織炎にて紹介受診.右足皮下膿瘍と血液培養から,肺炎球菌を検出し侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)と診断した.抗菌薬の点滴,皮下膿瘍のドレナージを行うも39℃台の高熱が持続した.MRIで第4/5腰椎椎間板・後腹膜周囲・両側腸腰筋・両下肢の筋肉内に,膿瘍の多発を認めCTガイド下ドレナージ処置を追加した.肺炎球菌莢膜血清型は4型であった.皮下膿瘍の起因菌が肺炎球菌であることは稀である.同菌が皮下膿瘍から検出された場合には,IPDを疑い,他部位の感染巣も検索する必要がある.
人工毛植毛により皮膚障害が生じることは知られているが,現在でも男性型脱毛症に対して人工毛の植毛が行われており,植毛部の皮膚障害を診察する際に患者自ら人工毛植毛の既往について申告しない症例も少なくない.今回我々は,人工毛植毛により生じた皮膚障害を4例経験し,臨床所見,トリコスコピー所見および病理組織学的所見をまとめ,人工毛植毛による皮膚障害の特徴とその機序について考察し,早期の病態把握の重要性について記す.