組織肥胖細胞(以下組肥と略記)は系統發生學的には兩棲類異常の有椎動物にのみ證明され,その發生は個體の肺呼吸と共に始まるとされ,(三浦)また肥胖細胞腫の發見により腫瘍學の見地より組肥系が獨立した一系の細胞である(Bloom)とも説明されている.近時Heparinocyten.(Oliver, J.,Bloom, F. and Mangieri, C)或はHistaminocyten(J. F. Rilly)としてその機能が漸次解明されつつあり,またアルカリフオスターゼが證明されて(Riley. J. F. and Drennan, J. M),組肥の機能が一層注目されるに至つた.人體に於ては殆ど全身の臓器に常在性細胞として分布している事が明らかにされ,結締織線維間に多く,好んで血管,腺誘導管周圍に集まる傾向にあるが,血管の豊富さと組肥の密度との間に深い關係は見出し得ないといわれ(三浦),またイ炎症反應による組織中には殆ど組肥は出現せず(松波),ロ炎症消褪後組織が線維性となるに及んで初めて輕度増加する(清野),ハ急性炎症に必ずしも減少せず,結締織の増殖及び慢性炎症竈には増加する(Stammler,Brack),ニ炎症に際しては何れも組肥は退行變性に陥り,顆粒は細胞質内に散亂してその一部は白血球,大喰細胞に貪喰され,或は漸次輪廓は不明瞭,染色性もまた不良となり結局消失すると見做し(Tsuda,Ernst,中島),ホ淋巴の鬱滞の多い時(W. E. Ehrlich,J. Seifter,H. E. Alburn and A. J. Begang),また結締線維の産生が行われている時には組肥は増加する(Stammler)等と言われている.組肥の出現する皮膚疾患として酒スv,鼻瘤,菌状息肉症,砒素黒皮症,圓形脱毛症,各種蕁麻疹,神經皮膚炎,黒色表皮腫,汗孔角化症,血管性多型皮膚萎縮症等(Gans)があげられているが概ね斷片的な記載に止まる.余は諸種皮膚疾患を對象として疾患別に依るその分布状態,各皮膚疾患の時期との關係,症状の好轉惡化に伴う消長を追究したのでそれについて述べる.
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