基底膜部が消失する病的な状態や発生のある過程では表皮細胞(角化細胞)と細胞外マトリックス(extracellular matrix,ECM)との相互作用が生物学的に重要性をもつが,ECMと細胞あるいはECM間の相互作用の機構についてはまだ充分には分っていない.そこで,フィブロネクチン(FN)およびコラーゲンの表皮細胞とくに細胞骨格系に対する生物学的相互作用を明らかにする目的で正常ヒト表皮細胞を培養し,抗ケラチン抗体,抗チュブリン抗体,抗FN抗体を用いた螢光抗体間接法によって観察した.すなわち,予めカバーガラス上にFNとⅠ型コラーゲンを塗布することによって生じた細胞骨格の配列変化を,また逆に細胞によって生じたFNとコラーゲンの変化を観察した.その結果,1)培養表皮細胞のケラチン中間径線維は核周囲に密な網状の線維構造を形成し,そこから放射状に細胞の周辺に向かって伸びており,隣接する細胞のそれとはデスモソームを介して連続しているように見えた.微小管はケラチン中間径線維と類似の網状線維構造を形成するが,隣接する細胞とは無関係で独立していた.2)FN塗布領域では細胞がFNを消失させ,遊走痕を残した.3)FN非塗布領域の細胞はFNに接する場合,FNの境界面に沿った方向性を示した.このような細胞のケラチン中間径線維と微小管はこの境界面に沿って平行に配列していた.4)コラーゲン上の細胞はコラーゲンの線維網を捕捉し,これによってコラーゲンは太い線維束となって細胞に向って集束してみられた.このような細胞のケラチン中間径線維と微小管はいくつかの太い束となって放射状に配列が変化していた.一方,線維芽細胞では同様の変化が観察されたが,メラノサイトではこのような変化は見られなかった.以上のことからFNとコラーゲンは表皮細胞の細胞骨格配列に変化を生じさせており,相互作用があると考えられた.また,細胞の種類による相互作用の相違が示唆された.
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