先に余等が表皮を主竈とする反応性疾患に於ける表現型の問題を論じた際Vidal苔癬,播種状神経皮膚炎,Besnier湿疹等の苔癬型皮膚炎の表皮にみられるグリコーゲン蓄積の配置,態度が急性湿疹に於ける夫れと対蹠的であり,貨幣状湿疹では是等両者の特徴を併有する所見を指摘したが其の後更に症例を重ねて此の事実を確認したので,健常並びに真皮反応性疾患に於ける表皮グリコーゲンの検索所見と併せて茲に報告する.グリコーゲンはClaude Bernard以来組織化学的に検出される多糖類の1つとして各方面の研究が行われ,人間表皮では胎生初期に全層に亘つて蓄積分布していたグリコーゲンが,胎生期の進行につれ基底層より消失し漸次上層にのみ残る様になり胎生6カ月以後には全くその姿を消し,一方毛嚢,皮脂腺,汗腺等の表皮附属器官では,是等の原基には存在せず分化に従つて漸次蓄積を示す事実が観察され注目されていた(Bosselini,Lombardo,Sasakawa).最近Periodic Acid-Schiff(PAS)反応が組織化学に応用され是に関する研究報告が相踵いで発表されたがBollinger et al.,Stoughton et al.,Montagna et al.,Warren,Dupre,Braun-Falco等は人間健常皮膚に就て検索し,グリコーゲンは表皮附属器官及び其の周囲に相当量の蓄積を示す他,上層の棘細胞内にも若干(報告者により多少の差があるが)存在し,基底層や顆粒層には例外的にしか指摘されず,角質層には全く缺如することが観察された.病変所見に就てはSteigleder,Prunieras,Steiner等が表皮反応性疾患の表皮に於けるグリコーゲン増加を指摘し,特にBraun-Falcoはアカントーゼを呈する各種疾患のRetezapfen中央部に屡々高度のグリコーゲン蓄積を認め,湿疹時の滲出性病変に於ても亦著明に増加すると記述し,Steinerも同様の観察を行つたが,皮膚炎の各病型に対する特徴的所見を認め難いとし,我国では野口他が是とアルカリフォスファターゼとの関係を発表している.皮膚に於けるグリコーゲンの意義に関し,汗腺では分泌機能に対応する消長が観察され其の機能営為に必要なエネルギー源と見做された(Montagna et al.,Shelley et al.,Rothman,小堀他,Cormia et al.)が是に比し遥かに複雑な機能を有する一般表皮に於けるグリコーゲン蓄積の意義に就ては,各種実験的並びに病理学的観察に基いた2,3の臆測が試みられているに過ぎな
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