59歳,男子,5年半の経過中に両下腿伸側に計8個の局面を発生したKyrle病の1例を報告した.本例には孤立した個疹はない.Kyrle病の組織学的診断には連続切片が用いられる.報告例の多くは孤立した皮疹を連続切片としたものが多いが,本例では個疹を欠くため,これらが集族し局面を形成したものを用いた.本例には耐糖能異常と長年にわたる肝機能障害を合併していたが,Kyrle病としては全経過よりみて軽症に過ぎると思われる.限局型として認められるものであろう.個々の皮疹は肉眼的にも,組織学的にもKyrle病に一致し,不規則な著しい表皮の陥入,基底層に及ぶ特有なConstantineらの言う異常な不全角化様角化,cornoid lamella 様不全角化,角化物と真皮の接触による異物反応,角質層内のいわゆるbasophilic cellular debris,transepidermal eliminationに一致する所見など本症に特徴とされる所見を認めることができた.perforating folliculitis,elastosis perforans serpiginosa,reactive perforating collagenosis, hyperkeratosis lenticularisとの鑑別診断を行い,本症の発症機序についてはTappeinerの説を紹介した.電顕的には病巣およびその周辺の基底細胞のいくつかは細胞質全体が電子密度が高く,tonofilamentが凝集し,デスモソームは減少し,核は偏在化したいわゆる,異常角化細胞の様相を示していた.しかしbasal laminaは比較的良く保たれていた.異常角化を示す基底細胞に隣接せる有棘細胞はほぼ正常でまた顆粒細胞,角質細胞も正常な角化を営む所見が得られたことよりKyrle病の発生機序として基底細胞の異常角化様変化が一次的に起るが,きわめて限局したものであり,他の部の表皮の角化と相まって著明な角質増殖を生じうるものと推定される.光顕的には最も特徴的な所見として既に取りあげられている基底細胞にみられるConstantineらの云う異常な不全角化様角化があるが,電顕的にもこれに相当するか,あるいは密接に関連する所見を観察し得たのは,本症例が初めてと思われる.
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