7例の悪性黒色腫(M)患者の皮膚転移巣に tuberculin-activeprotein(KT) を局注し,これによる影響を臨床的,組織学的に検討した.KT の1回可局注量は 15~500ng とし,週に1~2回の間隔で同一転移巣へ平均3~4回局注をくり返した.7症例の計106個の皮膚転移巣に KT を局注し,該転移巣が臨床的または組織学的に完全に消梗したものが63個(59%),完全消梗には至らなかったものか24個(23%),局注後早期に生検したため等の理由で判定保留としたものが19個(18%)という結果を得た.判定可能の転移巣数に対する完全消梗転移巣数の割合を症例別にみると,症例1が81%(13/16),症例2が9%(I/II),症例3か100% (43/43), 症例4が50% 1/2, 症例5が50%(2/4), 症例6が20% (2/10), 症例7が100%(1/1)と,症例により差が認められた.同一症例でも時期により,KT 局注に対する反応には変動がみられた.なお,KT 局汪実施期間中に,症例1では非局注転移巣が自然消腿し,症例5では白斑が多発して注目された. KT 局注による組織学的変化は下記の如くであった.まず局注数時間後に浮腫と血管拡張を伴って好中球を主とする浸潤がみられ,2~3日後になるとリンパ球の浸潤が目立つようになる.次いで腫瘍細胞の変性が始まり,組織球・melanophage が出現してくる.腫瘍細胞の変性・消失後には線維芽細胞が増殖し,後には軽い線維化巣が残る. なお,転移巣が KT 局注によく反応した症例においても,はっきりとした延命効果は確認しえなかった.副作用は大量局注時に中等度の熱発がみられたのみで,他に特別なことはなかった. KT 局注による転移巣消祖の機序は,強いツベルクリン反応(遅延型アレルギー反応)に,腫瘍細胞か巻き込まれて傷害される非特異的な作用が主体であろうと推測された.
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