Klempererその他(1942)の膠原病概念の提唱は,従来皮膚疾患という理解にとどまっていた播種性紅斑性狼瘡を,全身病として再認識させる動機を与えた.その際,当時までアレルギーの組織学的表徴として重視されていた類線維素変性が,その病因との結びつきを一応白紙にかえして追求された.この研究は,皮肉にも,immune nucleocytolysisという未知の現象に遭遇する結果となった.周知のように,この疾患においては,特徴ある細胞障害,結合織の病変が知られ,抗体産生の異常,殊に自己抗体の産生もひろく注目されているところである.しかし,その背景をなす抗体産生臓器組織の態度については,不思議なことに,深い関心が持たれているとは言えない.この疾患にあっては,骨髄,脾,リンパ節などの抗体産生臓器組織の過形成が続いた後に,それぞれの構造上の分化を失って非特異的な間葉構造に変貌するという.深刻な改築の過程が認められる.この疾患における自己抗体産生の基礎に,抗体産生臓器組織の明らかな異常が確認されるという点が注目される.しかも,これらの変化は,抗体産生臓器組織の先天的な形成異常ではなく,これらの組織が反応し続けた後の変貌の過程と理解され,その原因として,執拗な,長期にわたる感染ないし抗原刺激というものが想定される.これらの問題について,実験病理学の成果をも参酌しつつ,考察を加えた.全身性ループスにおけるいわゆる自己抗体には,具体的な病因作用の明らかなものが確かに認められる.最近,この疾患における腎障害(ループス腎炎)を特徴づける糸球体病変について,DNA-向DNA抗体結合物の役割が重視されつつある.しかし,異種抗原-抗体結合物の局在や,向糸球体基底膜抗体の病因作用もまた見逃すわけにはいかない.この疾患における糸球体変化の成り立ちが正しく理解されることが切望される.
抄録全体を表示