表皮性腫瘍における核輪郭を電顕的に観察し,核面積,核周囲長の計測から「核不則性指数(NII)」を算出し,これをもとに核輪郭の不整の程度の定量分析を試みた.健常者皮膚(NS)20例,脂漏性疣贅(SV)9例,光線性角化症(AK)10例,ケラトアカントーマ(KA)13例,有棘細胞癌(SCC)29例より,総計3297個の核のNIIを群別および症例別に計測した.また2核以上および核内に細胞質を有する核は特殊核と仮称し,それらの出現頻度も検討し,以下の結果を得た.1)5群別の平均NIIはSV(1.195±0.122),NS(1.236±0.152),AK(1.254±0.204),KA(1.328±0.215),SCC(1.376±0.258)であり,NS対AK間を除く全ての群間で有意差が認められた(p<0.01).2)症例別の平均NIIの比較においても,NSとSCC間では有意差を認め(p<0.001),SCCではBrodersによる組織学的悪性度の高い群ほどNIIが高値を示した.また再発,転移のみられた群は平均NIIが1.475±0.074と著しく高値であり,これらのみられない群(1.347±0.094)と比べて有意に高値であった(p<0.005).3)特殊核出現頻度はNSが0.63%であったのに比し,SCC11.32%,KA5.41%,AK6.51%であり,SCCではNIIと同様に悪性度の高い症例群での出現頻度が高く,再発,転移のみられた群では20.5%と,みられない群の約2倍であった.またSCCとKAでは特殊核の種類の割合においても差が認められた.以上より,NIIの計測はSCCにおおける悪性度や予後判定の客観的な指標として有用であると考えた.一方AKやKAのNIIに示されたように,核の不規則化には悪性度以外の要因も考えられた.
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