乾癬の研究は近年ますます盛んとなり,その病態生化学,病態生理学あるいは治療などに関して多数の報告に接するが,その本態については,今日なお不明とせざるを得ない現状である.乾癬の病理組織学的検索は,Burks & Montgomery,Civatte,Mackee & Foster,Helwigなど,すでに多数の研究者によつてなされており,これらを総括すれば,乾癬表皮におけるもつとも特徴的所見は,不全角化を伴なう角質増殖と,表皮突起の延長による表皮肥厚であり,さらに真皮における血管拡張,細胞浸潤もまた重要な所見である.しかしながらその發症機転については,Burks & Montgomeryらは,乾癬のもつとも早期に起る変化は,表皮における角質増殖と表皮肥厚であると述べ,Helwigらは真皮における血管系の変化を第一にあげているなど,一定の見解に達していない.一方,近年皮膚病変を代謝面から捉えようとする試みが盛んにおこなわれるようになり,その手段として,組織化学的方法が数多くとりあげられてきた.とりわけ生体の物質代謝に重要な役割を演ずる各種の酵素活性を,組織化学的に検索しようとする試みが盛んになつてきた.角化過程に関する代謝機構の組織化学的研究は,Ro-hman,Gruneberg & Szakall,Flesch & Esoda,そのほか多数の研究者によつておこなわれているが,これらは乾癬における異常角化を究明する手がかりとなると考えられる.さらに乾癬の組織化学的特徴である不全角化と表皮肥厚については,Braun-Falco,Steigleder,Spier & Caneghemらによつて詳細な研究がなされている.そのほか各種の酵素活性研究の一端として,乾癬をとりあげた報告は数多い.しかしながらこれまでの研究の多くは,乾癬のある病期における代謝機構の一断面を捉えたものが大部分であり,したがつて報告者によつて,その結果にかなりの相違が存在する.疾患における物質代謝の検索は,このようなある病期のみのものでは不充分であることはいうまでもないことで,その発症から疾患の完成,治癒過程,さらには發症の全過程をも含めて,全般的に検索することが必要である.このような観点に立つて,乾癬における酵素活性を組織化学的に系統的に検索した報告は極めて少ない.Braun-Falcoらは乾癬患者の無疹部皮膚,病巣部,さらに副腎皮膚ホルモン軟膏療法後の軽快皮疹部について,それぞれ組織化学的に検索を加え,乾癬患者の無疹部皮膚においても,すでに種々の代謝異常がうかがわれたと述べていることは,非常に興味深い.また近年,副腎皮質ホルモンの臨床的応用が次第に盛んになり,それの乾癬に対する影響を研究する方法として,組織学的,組織化学的に検索した報告も多数見受けられる.
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