血清中に高分子の含水炭素含有成分が存在する事実は既に古く前世紀末から認められていたが,この方面の研究が華々しい展開をみたのは比較的近年のことに属する.即ち血清中には多種多様の糖蛋白複合体の存在が認められ,その化学的構成や生理的意義更に起源或は代謝経路に就いて解明のメスが着々加えられつゝある.しかしながらこの分野の研究に大きな障害となるものは分類や名称に統一を欠く点で,各人各様の感すらあることは困惑する所である.Meyer,Stacey,正宗等の記載が一般に知られているが,Meyerによるとヘキソサミンを含有する高分子の多糖類をmucopolysaccharide(ムコ多糖類)と称し,蛋白と酸性ムコ多糖類の有極性結合即ち結合の容易にはずれる形のものをmucoprotein(ムコ蛋白),ヘキソサミン0.5%かそれ以上含有して蛋白質と強固に結合したものをglycoprotein(糖蛋白)と称し,ヘキソサミンの多寡により之をglycoids及びmucoidsにわかつている.かゝる分類に従うと,正常血清中酸性ムコ多糖類はきわめて少く6mg per litreといわれ(Badin,Bollet et al.),多糖類の大部分は糖蛋白の型で存在する.血清糖蛋白には多くの種類があるが,化学的構成が比較的明確なものにorsomucoid(オロソムコイド)(Weimer,Mehl & Winzler,Schmid)が知られるが,これはsmall acid glycoprotein,crystalline α1 glycoprotein,又はM-1と呼ばれ,Winzlerら12)のいう血清ムコ蛋白も恐らく異名同質のものと考えられる.即ちWinzler一派は1948年人血より過塩素酸で血清蛋白をおとし,その濾液に就き燐タングステン酸或はアルコールで沈澱する分劃をムコ蛋白と命名したが,後年このものもゼロムコイド分劃と見做す方がいいと述べている(1955).蛋白結合多糖類は血清糖蛋白の種類によりその配合比を夫々異にするもので,最近ではSchultzeらの詳細な研究もあるが,上記のオロソムコイドではヘキソサミン,ガラクトース,マンノース等分子及び少量のフコースからなるといわれる.その他,かなりの量のシアリン酸が含まれることがわかり,本物質が強い酸性の等電点を有するのはその為と考えられている(Odin & Werner).又正常血清のゼロムコイド量はヘキソースとして12mgで血清の全蛋白結合ヘキソース量の約10%をしめる9).かゝる多糖類の血清蛋白分劃に於ける分布に就いては電気泳動や塩析法等による多くの研究があり,一般にヘキソース,ヘキソサミン,シアリン酸はα1-,α2-及びβ-グロブリン分劃に多いといわれ,フコースはγ-グロブリン中に比較的多量結合するといわれる.蛋白結合多糖類の起源に就いては未だ充分解明されていないが,組織の酸性ムコ多糖類との関係が考えられる.炎症或は腫瘍の際,血清多糖類の増加する事は多くの人の認める所で,かゝる病的条件下では組織内基質の
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