乾燥症状主体のアトピー性皮膚炎患者45名の両前腕屈側部に,スキンケア目的のクリーム(薬剤無配合)を4週間連用させ,その間症状の記録とあわせて,皮膚常在菌分離を行った.分離菌についてはStaphylococcus aureusの有無と各菌のリパーゼ・プロテアーゼ・ヒアルロニダーゼ活性を検討した.S.aureus保持者は前腕屈側部で64%(45名中29名)前額部では71%(42名中30名)であった.個々の患者のS.aureusは,その菌数が多いほど健常者に通常検出される常在菌(Staphylococcus epidermidsやPropionibacterium sp.)と置き換わり,優占的になっていた.また,S.aureusの菌数は,患者の皮疹部の症状(重症度)と関連性が見られた.しかし,スキンケアクリーム連用前は「S.aureusが存在しないにもかかわらず乾燥性皮膚症状が悪い患者」がいたが,それらの患者たちの数はクリームを連用することによって減少した.今回のAD患者を,S.aureusの検出数(100cfu/cm2)で2群に分けた場合,その両群の間にはクリーム連用後の症状の回復に,明らかな違いが認められた.すなわち,S.aureusが少ない(<100cfu/cm2)の患者の群は,全体的に症状が改善した(危険率1%)が,S.aureusが多い(≧100cfu/cm2)患者の群は,潮紅,湿潤の項目では改善が見られず,掻破痕の項目ではわずかながら悪化した.このことから,一見同じように見える乾燥タイプのAD患者の中にS.aureusが関与する患者と,S.aureusが関与していない患者がいることを示唆された.そして,S.aureusが少ない患者に対しては主に保湿と表皮保護のスキンケア,S.aureusが多い患者に対しては上記保湿に加えてS.aureusを抑制し正常な菌叢へもどすような抗菌作用を兼ね備えたスキンケアが考えられる.
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