1862年F.von Hebraは今日Hebra紅色粃糠疹と呼ばれるものを“終始皮膚の潮紅と落屑のみを呈し,他に丘疹,小水疱等の皮疹を見ず,慢性に経過し,予後不良の疾患”と定義することによつて従来この種疾患の占めていた,甚だ漠然とした領域内に一つの形態学的疾患単位を設定,1876年FereolはDesquamation scarlatiniforme recidivanteなる,これは急性に経過する紅皮症の1型を報告した.これ等を先駆として1882年次いで1909年Brocqが,自験例及び従来の文献報告例に基いて,凡そ瀰漫性潮紅と落屑とを主徴とする疾患群を剥脱性紅皮症Erythrodermia exfoliativaなる病名に総括したのが,今日の紅皮症乃至剥脱性皮膚炎が1概念として取扱われるようになつた恐らく最初である.Brocqは紅皮症を湿疹,脂漏性湿疹,乾癬,紅色苔癬,毛孔性紅色粃糠疹,天疱瘡等の汎発化から生ずる続発性紅皮症と,文字通り原発性の紅皮症とに分け,後者を更に1.Erythema scarlatiniforme desquamatif recidivante ou dermatite exfoliative aigue benigne(Fereol,Besnier)2.Dermatite exfoliative generalisee subaigue(Wilson)3.Dermatite exfoliative generalise chronique 4.Pityriasis rubra chronique de Hebra 5.Pityriasis rubra subaigue benin 6.Pityriasis rubra chronique benin 7.Dermatite exfoliative des enfants a la mamelleに細別した.がJadassohnは紅色粃糠疹には結核に由来するものあり,又予後必ずしも不良ならずとし,更に又Brocq分類の3.慢性汎発性剥脱性皮膚炎は汎発性湿疹と考へられるとした.またBrocq分類の7.乳幼児剥脱性皮膚炎は今日のRitterの新産児剥脱性皮膚炎であり,このものは今日化膿球菌性と決定している.Brocq分類は上記の通りであるが,一方紅皮症の原発性,続発性を,又上のBrocqの分類のような個々の症型を左程に差別せず,一括してexfoliative dermatitisと称することも,殊に米英では行はれている.本邦では土肥(慶)は剥脱性紅皮症の,初老以後の男子を侵し,慢性経過中表在淋巴腺の腫脹,皮膚に汎発性に色素沈着する症例をHebra紅色粃糠疹とし,恐らく老人性内分泌変常に基ずく自家中毒症と看做した.西川特にその組織学的研究あり,江間はWilson-Brocq亜急性剥脱性皮膚炎を観察,その後大橋,岩間,栗原,大串,小嶋等この紅皮症或は剥説性皮膚炎を種々の観点から研究している.紅皮症はその原発性,続発性を問わず,その発症病理は今日尚不明に止まる.従来種々なる薬剤,特に水銀,砒素,金等重金属剤が恐らくその中毒現象として紅皮症を来すことが知られていたが,近年各種の抗生物質療法,化学療法の普及するに伴れて幾多の新抗生物質,新化学療法剤に因る紅皮症の報告が輩出するようになつた.又近年に至り,各種の間葉性悪性腫瘍症の臨床表現として紅皮症の来ることが注目されるようになり,例えばMontgomery(1933)はLymphoblastoma或は広く細網症と呼ばれる疾患が紅皮症々状を呈することが少くないとし,Baccaredda""はReticulohistiocytosis cutanea hyperplastica benigna cum melanodermia(1939)に来る紅皮症を報告,その他Sezary,Neuhold及びWolfram,Musger,Tritsch,Loblich及びWagner等夫々紅皮症を新に広義に於ける細網症或は細網系反応との関胼に於て眺める立場にあり,紅皮症研究に新生面の開かれたことを示している.なお慢性汎
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