炎症細胞に関する研究は種々の方法論の導入によつて,種々研究されているが,炎症巣の性格をもつとも端的に表現するのは炎症野における浸潤細胞の構成であり,その際Metschnikoffの古典的な,Mikrophagen,Makrophagen二細胞論は,今日に於ても尚重要な意義を有している.彼が顆粒白血球と対立する性格としてとらえたMakrophagen系は,多くの研究の対象となり,その命名と性格の規定の上に於て,極めて雑多な取扱いを蒙つたが,一通りその生物学的基礎が確立されるに至つたのは,生体染色法を駆使して,系統的に食細胞を体系づけた清野-Aschoffの組織球学説の功績である.但し,組織球学説に於ける血液単球の解釈には不徹底な点があつて,Makrophagen系内に於ける単球・組織球理解上,今日尚くりかえされる所の論争を胚胎した.単球・組織球の異動,相互関係,発生論及び炎症性反応に於ける両者の意義についての現況を綜説することは,本稿の目的とする所でないから省略して,今これらを一括してMakrophagenとよぶと,炎症野の浸潤細胞が主としてMikrophagen型をとるか,Makrophagen型をとるかを決定する因子についての多数の知見がある.まず両者の出現が,起炎体の性格に応じて異ることは周知であるが,その差は,起炎体の正常に関衈する両者の貧食能の相違(Lucke,Mudd,Robertson),両者細胞体構成の差(Clark),あるいは両細胞の有する酵素系の差異(Gleischmann,Rossitter,Wachstein他)に関衈する.起炎体が同一であつても,炎症状態の継続が長びく場合,炎症野にはMakrophagenを増し,条件によつてはその類上皮細胞化がおこる.炎症の経過からみれば,初期の好中球相から慢性期の単核細胞相へ,Menkinのいわゆるstreotypが成立つ.この変換は一面では炎症巣局所の条件,たとえばpHなどの性状の変化にもとづくと共に,他面では生体全体の反応態勢の変化が反映するものと考えられる.(Menkin,Corwin,Ehrich).翻つて,炎症性皮膚疾患はその臨床的表現型に於て極めて多彩である一面,その組織病理学上の所見は類似型であつて,病変の解析には局所及び全身的な機能背景を充分考慮することが必要であると考えられるが,従来までその方面の知見は必ずしも充分でない.細胞内皮系細胞及び所謂単球が,湿疹及び湿疹様疾患にどのように参劃し,又どのような形態を示すかは,これら皮膚疾患に於て,局所的に又全身的にいかなる反応相にあるかを暗示するものと考えられる.著者はリチオンカルミン生体染色を人体皮膚に応用して,カルミン摂取細胞が,湿疹及び湿疹様疾患の真皮浸潤細胞として,どのように分布し,又どのような形態を示すかを検討し,又それらの他の浸潤細胞との関係,炎症の急性型と慢性型とに於けるカルミン摂取細胞の活動の相違などを観察する目的で,以下の実験を試みた.
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