黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus),コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci;CNS),A群化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)それぞれに付着特性で差異が見られる.S.aureusは親水性が高いが,CNS,S.pyogenesは疎水性が高い.血漿の存在はS.aureus,S.pyogenesの付着を高めるが,CNSの付着はむしろ減少させる.血清IgAの存在はS.aureusの付着を高めるが,S.pyogenesの付着は減少させる.これらの付着特性によりアトピー性皮膚炎(AD)でS.pyogenes感染症が好発する理由が説明できる.すなわち,ADの乾燥部ではS.aureusの定着が少なくsecretory IgAが減少しているためS.pyogenesの付着が容易に起こると考えられる.一方,S.aureusの付着には皮膚炎の存在など血漿成分の漏出が重要である.本邦では成人のAD,特に顔面の重症型患者が増加している.それに伴いMRSAが定着したAD症例数の増加が目立ってきている.AD患者への抗菌薬療法はMRSAへの菌交代を防ぐため注意深い投与デザインが必要である.AD患者ではS.aureusの産生するスーパー抗原に対する特異的IgE抗体が増加しており,これらの毒素がマスト細胞を活性化することによりAD皮疹を増悪させる可能性が考えられている.近年,環境アレルゲンとスーパー抗原が協力して免疫系に影響を与える可能性が指摘されている.稀な疾患ではあるが見逃してはならないものとしてneonatal TSS-like exanthematous diseaseがある.発熱,発疹,血小板減少を示す新生児疾患で,MRSAのcolonizationより産生されたtoxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)により発症する.皮膚科領域で検出されるS.aureusもバイオフィルムを形成する.S.aureusのバイオフィルムが作られるにはフィブリンが形成されることが必須である.そのためS.aureusによるバイオフィルムを抑制するにはフィブリン形成を抑制することが重要である.金属酸化物(ceramic powder slurry)(1~5%ZnO,0.12%CaO,0.25%MgO),高浸透圧(70%sucrose,50%glucose),低pH(pH5.0以下)(0.25%acetic acid),UVAによる皮膚表面の高温(50℃,1時間)などでS.aureusによるフィブリン形成が抑制される.
抄録全体を表示