生体における物質代謝の研究或いは病態生理追求の一手法として近年酵素の組織化学的研究は飛躍的発展を遂げており,皮膚科領域においても生化学的研究による制約面を補足する意味で諸種物質の代謝異常の解明に欠くべからざる手法となりつつある.事実今日皮膚疾患における諸酵素の組織化学的研究は多種多様にわたり枚挙に暇がないが,uridine diphosphoglucose dehydrogenase(以下UDPG-DHと略記)活性については未だその報告をみないようである.本酵素は生化学的に1959年Hambraeus & Bostromがmurine mast cell tumorにつき,1962年Jacobson & Davidsonが幼若家兎皮膚につき,1965年教室の佐々木が実験的家兎肉芽組織につきそれぞれその存在を確認し,また前報第1編において家兎,マウス及び人の正常皮膚,実験肉芽組織並びにL細胞につき,第2編においてマウス及び人の肥胖細胞につき報告したように,酸性ムコ多糖類(以下AMPSと略記)の構成成分たるglucuronateの重合に与るもので,臨床面ではある種皮膚疾患の病因解明に重大な関連をもつものと予想せられる.そこで本編では各種皮膚疾患病巣につき本酵素の活性度並びに分布を検討することとした.もつとも材料採取上全皮膚病を網羅することは不可能であり,また煩雑に過ぎるので,本酵素の作用機序を考慮して表皮肥厚或いは角化異常性疾患及び結合織病変に主眼をおいた.なお色素性蕁麻疹は第2編の肥胖細胞の項において触れたので,重複をさけここでは省略した.以下得た成績の大要を記載するとともに,2,3皮膚疾患における本酵素の病態生理学的意義について檢討したい.
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