スポロトリクム症はSporotrichum schenckiiによる慢性肉芽性の真菌疾患で,1898年Schenckによりアメリカ合衆国で発見された.Sporotrichumは不完全菌類,モニリア目,モニリア科,スポロトリクム属に属する.本菌は培地における集落の着色の有無,胞子形成およびその菌糸にたいする附着状態などからSp. schenckiiのほかにSp. beursmannii, Sp. dorii, Sp. gougerotii, Rhinotrichum beurmannii, Rh. saccardoなどの名称があげられる.ただしSp. gougerotiiは黒色分芽菌症の病原菌であつて本症の病原菌とは別種で,JankeはOosporeaeに編入さるべきであるとし,CarrionはCladosporiumに属すると提案した.Conantらは本症から分離された多くの菌株を検査した結果,結局同種であることを認め,本症を唯一の菌Sporotrichum schenckiiによるものであると定義した.本菌の色素形成能,胞子着生状態,糖,醗酵能は不定で,同一の菌によっても条件により変りうるから,種の区別判定には役立たぬという理由をあげている.本症の治療としてはヨードカリやスポロトリキンによるワクチン療法がよく用いられるが,他にも諸家によるいろいろな報告がみられる.すなわちLatapiはグリセオフルビン使用8例中4例に治癒を認めたと報告し,JLyonsは8週間の投与で治癒,Braitmanはヨードカリを用いた時より効果が著しかったとのべている.一方Finlayson, Fernandezはグリセオフルピンは無効であったと報告している.またFinlaysonらはアンホテリシンBの経口投与は無効であったが,静脈注射で著効を認めたと記載している.サルファ剤については荒尾・寺尾は難治であったと,福代は無効であったとの報告がある.抗生物質の使用ではKadenはペニシリン,ストレプトマイシンいずれも効果に乏しいと報告し,福代もストレプトマイシン,オーレオマイシンなどを試みたがいずれも無効であったという.他にGeraciらは2-hydrostilbainidine, Curtisはstilbamidine剤の使用について報告しており,Harrellらはリンパ管型の1例にstilbamidineの生理食塩水溶液を週3回ずつ静脈注射を行なつて治癒させたと記載している.またCurtis, Kalkoff・Jankeはレントゲン照射を行なった例を報告している.外科的切除術もときどき報告されるが,JadassohnのHandbuchによると増殖性で現状のものにたいする電気焼灼以外は慢性潰瘍化を来たすから外科的操作を行なうべきでないと記載してある.Robinsonはresistant caseには外科処置を行なうのがよいとのべている.Ormsbyは本症の潰瘍には適宜外科的処置が必要であることを報告しているし,山田・渡辺も小さい病変が単発しているときは手術によって剔除することで完全治癒がえられると記載している.またThomasは発熱療法を,Galianaは高温湿布を行なうことにより治癒せしめたという報告を行なっている.
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