加齢に伴う細胞性免疫反応の変化を知る目的で実験を行った.先ず3週齢 ICR-JCL マウス雌810匹を揃え,成長を待って4週齢より80週齢に至る間に,合計400匹に皮膚癌細胞の同種移植を行った.使用した癌は可移植性皮膚疎細胞癌 Sq 12 で ICR とは無関係の closedcolony マウスに由来する.癌細胞20万個移植群と2,000個移植群の2群について観察したが,両群とも腫瘍移植成功率,腫瘍死したマウスの生存した日数のいずれよりみても,64週齢以後の老齢マウス群に著しい抵抗の低下を証明した.肝,腎への血行性転移も老齢マウスには確実に発生していた(実験1).次に経時的に購入し週齢のことなる4群をつくり,同時に Sq 12 癌細胞の移植を行ったが,実験1と同じ傾向がみられた(実験2).実験1において腫瘍を拒絶して生き残ったマウスが96週齢の老齢に達したとき,再び最初と同数の Sq l2 癌細胞移植を試みたところ,2例を除き,他の19において再び腫瘍は拒絶された.細胞性免疫反応は secondary response に関しては,老齢においてもかなりよく保たれることを示唆する成績であった(実験3).一般に老齢における細胞性免疫反応の低下は周知の如くいわれているが,多くのマウス系,多くの分析的方法が用いられるにつれ,単純に一般化することの困難なことが明らかになってきている.腫瘍の同種移植も細胞性免疫反応を調べる一つの検査法として用いられているが,その特徴とするところは,1個体の数10日より100日以上にもわたる反応の総決算としての腫瘍死あるいは生存を観察しうること,腫瘍 graft は強い増殖能力を持ち,すみやかに数を増してくることから,免疫反応はすみやかに起ってこれを絶滅せしめない限り拒絶することが難しくなることなどにあり,他の多くの細胞性免疫反応の検査法とはやや趣を異にすることが考えられたので,文献を検討し考察を行った.
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