近年皮膚悪性黒色腫の前駆症ないしリスクマーカーとして注目されているDysplastic melanocytic nevi(以下DMNと略)は,組織学的にatypical melanocytic hyperplasiaないしlentiginous melanocytic dysplasiaと称される,種々の異型なメラノサイトの表皮内増殖を特徴とする.これらの異型メラノサイトの光顕レベルでの検索に比べ,微細構造特にメラノソームに関しては未だ十分な検討がなされているとは言えない.一方従来よりメラノソームの微細構造の観察を基礎として,皮膚悪性黒色腫を臨床上類似する良性のメラノサイト系腫瘍から鑑別しようとする試みが多数の研究者によって行われてきた.しかしメラノソームの形態(特に皮膚悪性黒色腫におけるメラノソームの形態)に関して必ずしも統一した見解はえられていない.その理由の一つとして,メラノソームの産生はメラノサイトそのものの性格を反映するのみでなく,メラノソームを受け取る周囲の細胞の影響,特にケラチノサイトの影響を受ける可能性があるからである.さらに実際にNevocellular nevi(以下NCNと略)のメラノサイトとして報告されたメラノサイトが,実はNCNのメラノサイトでなく,最近までその疾患概念が明らかでなかったDMNのメラノサイトを観察していた可能性も否定できない.今回我々は,DMNの表皮内メラノサイトの特徴を明らかにするため他のメラノサイト系2疾患,すなわちSuperficial spreading melanoma(以下SSMと略)およびNCNとDMN近傍の正常皮膚(Normal skin,以下NSと略)より表皮内メラノサイトを選択し,それらの微細構造をメラノソームの微細構造を中心にして比較検討したので,若干の考按を加え報告する.
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