7症例9個の神経線維腫を体外培養し,位相差顕微鏡所見とともに,新しい S-100 タンパク染色所見を検討し,また微速度映画撮影により,動形態的検索も行なった. 1)全例ほぼ同じ成績が得られ,体外培養細胞は,基本的に Schwann 細胞系細胞と線維芽細胞系細胞の2系続からなる所見であった. 2)初代培養所見:従来の報告と異なり, Schwann 細胞系細胞は培養直後(24時間以内)から,マクロファージ様形態の細胞として遊出し,3日目頃から細胞質突起が現れ,次第に延長し,樹枝状形態の細胞となり, S-100 タンパク染色陽性であった.線維芽細胞系細胞は7日目頃から紡錘形ないし多角形の細胞として現れ,14日目から急激に増殖し, S-100 タンパク染色陰性であった. 3)継代培養所見:症例1では,記録的な約2年(726日)にわたる長期継代培養に成功した.継代を続けると, Schwann 細胞系細胞の数が減少して,線維芽細胞系細胞の数が増加してきた.さらに培養を継続した結果,約1年を過ぎる頃から,細長い突起を多くもつ細胞が優勢となり,1年半頃からほとんどすべてこの細胞となり, S-100 タソパク染色陽性であり, Schwann 細胞系細胞が示唆された.なお線維芽細胞系細胞が少数混在の状態であった. 4)微速度映画撮影所見:動形態を観察すると,Schwann 細胞系細胞と線維芽細胞系細胞の特徴は,さらに明瞭に観察できた.すなわち, Schwann 細胞系細胞は,初代培養において,マクロファージ様または樹枝状形態を呈し,相互に移行がみられ,運動性が活発で, dish 底面との付着性に乏しかった.長期継代培養したSchwann 細胞系細胞は,細長い細胞質突起をもち,その突起の運動性は,比較的活発であった.一方,線維芽細胞系細胞は,初代から紡錘形ないし多角形の細胞で, dish 底面との付着性が良く,アメーバ状のゆっくりとした動形態を示した.この所見は,長期継代培養後も変化はみられなかった. 5)培養初期に優位を占めること,さらに長期継代培養所見と合わせて,本腫瘍の腫瘍起源としては Schwann 細胞系細胞が主構成要素であり,線維芽細胞系細胞が二次的要素であることが示唆された.
抄録全体を表示