有棘細胞癌の遺伝子異常については,これまでp53,INK4a,Rasなどの癌遺伝子の点変異や欠失変異の存在が報告されている.一方,これら通常の遺伝子変異とは異なり,腫瘍細胞において染色体の転座・挿入・逆位などが生じた結果,複数の遺伝子が結合することで出現する融合遺伝子についてはこれまで検討がなされていなかった.我々は最近,有棘細胞癌のA431およびJDM-1細胞株において融合遺伝子EGFR-PPARGC1AおよびADCK4-NUMBLを同定した.
本稿では有棘細胞癌の発生や進展のメカニズムについての最新の知見と,融合遺伝子の臨床的意義や腫瘍形成における役割,そして診断面や治療面での応用の可能性について論じたい.
メラノーマには,体細胞遺伝子変異,コピー数異常,エピゲノム異常など多様な分子異常がある.病型・発生部位ごとにゲノム異常のタイプに特徴があり,紫外線の影響を受ける部位には体細胞変異が多く,いっぽうで掌蹠爪部や粘膜部では早期からコピー数異常などの構造多型がある.間歇的な紫外線暴露部位では,良性の色素細胞母斑にもMAPK経路の分子異常が生じており,メラノーマではp53経路の破綻など癌抑制遺伝子の異常,細胞周期の異常,テロメラーゼ活性化,クロマチン再構築などが加わる.
メルケル細胞癌の腫瘍細胞からメルケル細胞ポリオーマウイルス(Merkel cell polyomavirus:MCPyV)が同定されて,早いもので10年以上が経過した.このウイルスの発見を機に,病因・病態の解析や腫瘍免疫など様々な分野での研究がすすんだことは間違いない.MCPyVは広く蔓延したウイルスであり,大部分のメルケル細胞癌がMCPyVの関与するウイルス発癌である一方で,紫外線発癌とされるMCPyV陰性例も一定数存在する.稀な疾患ながら,メルケル細胞癌はその病態を含め非常に多様性に富んだ腫瘍である.
胃前庭部毛細血管拡張症(GAVE)を合併した全身性強皮症(SSc)の臨床的特徴について検討した.GAVE合併例では非合併例に比して抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性率とスキンスコアが有意に高く,ヘモグロビン値が有意に低かった.治療前後の比較ではシクロホスファミドパルス療法やトシリズマブがGAVEに有効である可能性が示唆された.SScの発症早期よりGAVEが出現した症例もあり,慢性貧血や重症の急性消化管出血を生じ得ることから,上部消化管内視鏡検査による早期スクリーニングが重要と考えられた.
生後7カ月,第3子男児.出生時から完全母乳栄養であった.生後5カ月頃より口囲や臀部に紅斑とびらんが出現し当科受診.後頭部の脱毛や下痢も認めた.同胞(9歳,7歳)も完全母乳栄養であったが同様の症状は認めなかった.患児の血清亜鉛濃度,患児母(35歳)の母乳中亜鉛濃度は低値であったが,患児母にSLC30A2遺伝子変異は認めなかった.低亜鉛母乳による亜鉛欠乏症と診断し,ポラプレジンク0.1 g/日を開始し2週間後には患児の血清亜鉛濃度は基準値内となり下痢や皮疹も改善した.また,約1カ月後には後頭部脱毛は一様に発毛がみられた.
78歳,男性.初診14カ月前から左上腕の紅色結節を自覚.初診時直径2 cm,無痛性,びらんを伴う赤褐色の隆起性腫瘤を認めた.生検にて,表皮と連続性がない充実性腫瘍胞巣周囲に密なリンパ球と形質細胞の浸潤を伴い,lymphoepithelioma-like carcinoma of the skin(以下,LELCS)と診断.全摘標本にて,LELCSに加えBowen病および有棘細胞癌の所見を認めた.術後10カ月,再発所見なく経過観察している.
遅発性大型局所反応(delayed large local reaction)はModerna社製新型コロナウイルスワクチンmRNA-1273の代表的な接種後副反応であり,紅斑,皮下硬結,圧痛などの症状が接種後およそ7日目から11日目まで継続する.今回我々は第1回目接種後に生じた遅発性大型局所反応の3例を経験した.症例間で皮疹の範囲や圧痛の程度に差があったが,いずれも無治療か対症療法で軽快した.この副反応は特徴的な臨床経過から容易に診断可能であり,2回目は1回目よりも軽い傾向にあるため,生じた場合にも第2回目の接種を制限する必要はない.
乾癬は外用治療が主体だが,広範病変や重症,難治部位には利便性や効果が不十分な場合も多い.この問題点を軽減した配合外用薬が第一選択薬とされているが,そこに新しい剤形であるフォームが加わった.そこでカルシポトリオール/ベタメタゾンジプロピオン酸エステル(Cal/BDP)フォームを中心に,新しい作用機序,有効性,安全性,Patient Reported Outcomes(PROs),治療困難な病変に対する新たな治療の観点から検討した.その結果,配合外用薬において,頭部病変には従来どおりCal/BDPゲルを推奨し,体部および難治部位にはCal/BDPフォームを新しい有力な治療オプションとして提唱する.